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第二部
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しおりを挟む「はぁ……」
「な、何よ!あなたが嫌がったってね、ここにいる間に絶対に落としてやるんだから……っ!」
ジャックがわざとらしく大きな溜め息を吐くとエラは噛みつくように言った。だが目には涙が滲んでいる。エラはジャックに拒絶されることを何より恐れていた。
「……ったく」
「へ」
気付くとジャックに引き寄せられ、胸の中に閉じ込められていた。エラは動揺しすぎて頭が真っ白になり身体を固くさせた。
「……俺は魔法使い様じゃねーけど、いいのかよ?」
「……魔法使い様じゃなくてジャックがいい」
「王子様でもねーぞ」
「王子様も好きじゃない。騎士のジャックが好き」
「騎士の中でもかなり下っ端だ、その辺の破落戸と変わんねーぞ」
「……っ、破落戸なんかじゃない!」
エラは顔を上げて、キッとジャックを睨んだ。
「ジャックは幼い頃から大変な境遇だったと思うけど、それでも生き延びてくれて、この国の騎士になったんでしょう。今だって私の警護なんて面倒な仕事、ずっと頑張ってくれているわ。だから破落戸なんかじゃない……っ。そんな風に言わないでよ」
「……泣くなよ」
「あなたが泣かせたんでしょう」
「……悪かった」
ジャックが謝るとエラの涙はぴたりと止まり、目を瞬かせた。
「何だよ」
「あなたが素直に謝るなんて珍しくてびっくりしたの」
「失礼なやつ」
ジャックが眉を寄せムッとすれば、胸の中にいるエラは可笑しそうにくすくすと笑った。
「ジャック、あなたが教えてくれたのよ。自分で自分を大切にしなければならない、ってことを」
エラが自分を犯罪者だと言った時、ジャックは怒った。ジャックはエラには自分を大事にするように伝える癖に、自分のことは後回しにしたり、自身を悪く言うことが多い。
「あなたが自分を大切にしていないと、私悲しくなるのよ」
「……俺の負けだな」
ジャックが腕に更に力を入れると彼女は「く、苦しい……っ」と呻いた。エラは身を捩りながら抜け出そうとする。ジャックが苦しくない位置に腕を動かして、エラは漸く落ち着いた。
「もうっ!お義姉さまと同じことするんだから……それより負けって何よ」
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