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第二部
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しおりを挟む「―――それで結局お義姉さまには了承を得られなかったの。縁を切るなんて許さないわって……お義姉さまが怒っているところなんて初めて見た」
エラの目的の一つだったナスタジアと縁を切る……というよりエラを戸籍から抜いてもらう願いは残念ながら叶えられなかった。
「これは私の為だけじゃなかったのに……何を言っても聞いてもらえなかったわ」
エラは大きく息を吐くと肩を落とした。エラとしては、家族の中にエラのようなややこしい存在――義姉の婚約を邪魔したような厄介な義妹、がいない方がナスタジアの為になると思ったのだ。
チャーリーが逃げ出してきた件だってエラを利用してナスタジアやイザードの立場を危うくしようと目論んでいた人間が企てたことだ。エラがナスタジアと縁を切ってさえいれば起こらなかった事件だと彼女は考えていた。そしてこれからもこんな事件は起こるだろう、それを防止するためにも縁を切ることは最善に思えたと言うのに。
「お義姉さまったら怒った後はわんわん泣いて、驚いたイザード様が慌てて来られたの。経緯を聞いたイザード様が、”うちの国の者が迷惑を掛けて申し訳ない”って頭を下げるから気まずくって」
エラは別にイザードに文句が言いたい訳では無かった。チャーリーと一緒に来たあの魔法使いに対しては思うところはあるが、それをイザードのせいだとは思ってもいないし、エラのような義妹がいたらそういうこともあるだろうと考えている。だからこそエラとの縁さえ切れば、ナスタジアやイザードの不安が少しでも減るだろうと思ったのだがその提案には頷いては貰えなかった。
「私の身を守れるように考えているから、少し時間をくれって。私そんなもの頼んでないのよ?お義姉さまも”近いうちにお母様とお姉さまに会いに行きましょう”なんて言うし。私は縁を切りに来たって言うのに。大体、ベアトリーチェお義姉さまとは合わないのよね」
上の義姉ベアトリーチェは、ナスタジアと反対の性格……というよりエラとそっくりで相性が悪かった。二人は熾烈で感情的な面がよく似ていた。知らない者が見ればナスタジアではなくエラと血が繋がっていると思われるほどだ。あの時のナスタジアの勢いを考えるとすぐにベアトリーチェに会うことになるだろう。エラはうんざりしてしまった。
「まぁ……でも、ジャックを落とせた時に身分が問題になるようなら対応すると約束してくれたわ。だからね、ジャック、覚悟しておいてね」
目の前の愛しい人へエラはにっこりと笑った。身分を理由にするのは許さないと、今から落としてみせると、エラは宣言しているのだ。溜め息を吐くジャックを余所にエラはきょろきょろと辺りを見渡した。
「あれ?そういえばみんなは?」
先程まで集まっていた講師たちや侍女はエラの話の途中――主にジャックへの愛を語った場面で、そろりとその場から離れていたのだ。今更それに気付いた彼女へジャックはもう一度溜め息を吐いた。
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