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第二部
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しおりを挟む仲直りを済ませた二人は漸くソファに腰を下ろし、近況報告をし合った。気を遣ったイザードは続き間となっている隣室で待機してくれることになった。勝手に塔を出て来ているエラとナスタジアを完全に二人っきりにはできないことを告げられたエラは、イザードの配慮に寧ろ感謝していた。
「ねぇ、エラの想い人について聞きたいわ」
「う……」
「あの騎士の方でしょう」
以前ジャックが倒れた時にエラはナスタジアに助けを求めており、その頃からナスタジアはエラが彼を想っていると考えているようだった。想いが見破られていることが悔しくて恥ずかしいが、元々の来訪の理由は彼女への謝罪とジャックのことだった。エラは渋々ジャックについて話し始めた。
「彼は……荒くれ者のような見た目で、髭は伸ばしっぱなしだし、服も汚いし」
「ええ」
「いっつも意地悪で、言葉も乱暴だし、怒ってばかりだし」
「うん」
「だけど、料理が上手で、絶対に私を空腹にはさせないと決めているようで。私が作りたいと強請ったら、邪険にしないでくれて」
あの塔に来てからエラはよく食べるようになった。その分沢山動いているので太ることは無いが、気を抜くとあっという間に太ってしまうだろう。ジャックの作る料理はどれも美味しいし、彼が料理をしている背中を見る時間がエラは好きだった。
「私が怪我をしたらすごい心配して、心配し過ぎて怒り出して。俺が心配するから怪我するな、なんて偉そうに言って」
自分を大切にすることを彼はいつも必死で教えてくれた。そのくせ自分の身体は後回しだからエラはもどかしい思いをしていたけれど。
「見た目は綺麗じゃないし、がさつだし、言葉も汚いのに、彼といるとよくお義姉さまを思い出していました。表面に見えるものは違うけれど、彼が私にくれるものは、お義姉さまが幼い頃から私にくれていたものと同じものでした」
『あなたが大事』だと、幼いナスタジアはエラに必死で伝えていた。体調を崩せば甘くて冷たいジュースをこっそり飲ませてくれた。エラがどんな態度を取っても隣にいてくれた。エラが魔法使いが好きだと知ってからは、沢山の絵本を読んでくれた。ジャックと暮らし始めてからそれがどんなに特別なことだったのか知った。
「エラ、愛されてるのね」
「うーん、どうでしょうか。告白も断られてしまいました」
「まぁ!」
ナスタジアは目を丸くした。そう言えばこんなに表情豊かな義姉を見るのはいつぶりだろう。王太子妃教育が始まって表情が乏しくなった義姉を見て、違和感を覚えていたけれどそれは違うと今は分かる。あの頃のエラはきっと寂しかったのだ。
「あの、お義姉さま……」
エラのお願いはきっと彼女を泣かせてしまうだろう。だけどエラは伝えなければならない。愛する人と結ばれるために。
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