39 / 63
第二部
21
しおりを挟む
※※※
更新が大変遅くなり申し訳ありません。
引き続きお楽しみください。
※※※
「何だか騒がしいわね」
その日の朝、いつも通りの時間に目覚めたエラだったが部屋の外が騒々しいことに気付き胸騒ぎを覚えた。手早く身支度を整え部屋を出ると、ジャックだけでなく講師達も複数おりバタバタと塔の中を駆け回っていた。明らかに異常事態が起きている。エラはジャックに駆け寄り声を掛けた。
「ねぇ」
「……起きたのか」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたジャックを見てエラは不満気に口を尖らせた。
「何よ、起きて来ない方が良かったって言うの」
「……チッ」
「まぁまぁ」
いつも通りの二人に苦笑いしながら講師の一人が間に入った。今にも怒りを爆発させそうだったエラだが講師の存在を漸く思い出し、無理矢理気持ちを落ち着けた。だがその努力もまたこの男によって水の泡となってしまう。
「一体何があったの?」
「お前には関係ない」
「なっ……!」
「待ってください、ジャック殿。エラさんにも伝えるべきです。そうでないと……」
「こいつには言うな、絶対に。おい、お前は部屋に居ろ。出るんじゃねーぞ」
突き放されたその言葉に、その表情に、エラの胸は締め付けられたように苦しくなった。今の彼に何を言っても、聞き入れてはくれないだろう。込み上げる気持ちを告げる気持ちにもならず「もういい」と小さく呟くと部屋に向かう。
「エラさん!待ってください!」
講師が追いかけて来ていたが振り切るように部屋に戻ると大きな音を立てて扉を閉め、ベッドへ潜り込んだ。暫く扉の前で声が聞こえていたが、エラが返事をすることは無かった。
「……ジャック殿」
「ふん」
講師から咎めるような声を掛けられてもジャックに悪びれた様子はない。
「エラさんに伝えるべきです。チャーリー殿下が逃げ出したこと、恐らくこちらに向かっていることを。理由が分からない状況で彼女が素直に守られてくれると思いますか。彼女が万が一殿下と鉢合わせしたらどうするのですか」
「そんな状況にはしない」
「ですが殿下が逃げ出した後に魔力の痕跡があったと報告がありました。殿下に魔法使いが付いているなら、どんな状況になるか分からないのですよ。彼女を守るためにも伝えるべきです」
「……あいつには伝えない」
頑なに首を振るジャックに講師は大きく溜め息を吐いた。
「……エラさん泣いていましたよ」
「……っ」
ぴくり、と反応したジャックを見て、講師は呆れ交じりにもう一度溜め息を吐くのだった。
※※※
お知らせ:新作『拗らせ王子と意地悪な婚約者』本日より公開しています。恋愛小説大賞エントリー中です。宜しければ是非お読み下さい!
更新が大変遅くなり申し訳ありません。
引き続きお楽しみください。
※※※
「何だか騒がしいわね」
その日の朝、いつも通りの時間に目覚めたエラだったが部屋の外が騒々しいことに気付き胸騒ぎを覚えた。手早く身支度を整え部屋を出ると、ジャックだけでなく講師達も複数おりバタバタと塔の中を駆け回っていた。明らかに異常事態が起きている。エラはジャックに駆け寄り声を掛けた。
「ねぇ」
「……起きたのか」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたジャックを見てエラは不満気に口を尖らせた。
「何よ、起きて来ない方が良かったって言うの」
「……チッ」
「まぁまぁ」
いつも通りの二人に苦笑いしながら講師の一人が間に入った。今にも怒りを爆発させそうだったエラだが講師の存在を漸く思い出し、無理矢理気持ちを落ち着けた。だがその努力もまたこの男によって水の泡となってしまう。
「一体何があったの?」
「お前には関係ない」
「なっ……!」
「待ってください、ジャック殿。エラさんにも伝えるべきです。そうでないと……」
「こいつには言うな、絶対に。おい、お前は部屋に居ろ。出るんじゃねーぞ」
突き放されたその言葉に、その表情に、エラの胸は締め付けられたように苦しくなった。今の彼に何を言っても、聞き入れてはくれないだろう。込み上げる気持ちを告げる気持ちにもならず「もういい」と小さく呟くと部屋に向かう。
「エラさん!待ってください!」
講師が追いかけて来ていたが振り切るように部屋に戻ると大きな音を立てて扉を閉め、ベッドへ潜り込んだ。暫く扉の前で声が聞こえていたが、エラが返事をすることは無かった。
「……ジャック殿」
「ふん」
講師から咎めるような声を掛けられてもジャックに悪びれた様子はない。
「エラさんに伝えるべきです。チャーリー殿下が逃げ出したこと、恐らくこちらに向かっていることを。理由が分からない状況で彼女が素直に守られてくれると思いますか。彼女が万が一殿下と鉢合わせしたらどうするのですか」
「そんな状況にはしない」
「ですが殿下が逃げ出した後に魔力の痕跡があったと報告がありました。殿下に魔法使いが付いているなら、どんな状況になるか分からないのですよ。彼女を守るためにも伝えるべきです」
「……あいつには伝えない」
頑なに首を振るジャックに講師は大きく溜め息を吐いた。
「……エラさん泣いていましたよ」
「……っ」
ぴくり、と反応したジャックを見て、講師は呆れ交じりにもう一度溜め息を吐くのだった。
※※※
お知らせ:新作『拗らせ王子と意地悪な婚約者』本日より公開しています。恋愛小説大賞エントリー中です。宜しければ是非お読み下さい!
18
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました
ボタニカルseven
恋愛
HOT1位ありがとうございます!!!!!!
「どうしたら愛してくれましたか」
リュシエンヌ・フロラインが最後に聞いた問いかけ。それの答えは「一生愛すつもりなどなかった。お前がお前である限り」だった。両親に愛されようと必死に頑張ってきたリュシエンヌは愛された妹を嫉妬し、憎み、恨んだ。その果てには妹を殺しかけ、自分が死刑にされた。
そんな令嬢が時を戻り、両親からの愛をもう求めないと誓う物語。
【完結】「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」
まほりろ
恋愛
【完結済み】
若き侯爵ビリーは子爵家の財産に目をつけた。侯爵は子爵家に圧力をかけ、子爵令嬢のエミリーを強引に娶(めと)った。
侯爵家に嫁いだエミリーは、侯爵家の使用人から冷たい目で見られ、酷い仕打ちを受ける。
侯爵家には居候の少女ローザがいて、当主のビリーと居候のローザは愛し合っていた。
使用人達にお金の力で二人の愛を引き裂いた悪女だと思われたエミリーは、使用人から酷い虐めを受ける。
侯爵も侯爵の母親も居候のローザも、エミリーに嫌がれせをして楽しんでいた。
侯爵家の人間は知らなかった、腐ったスープを食べさせ、バケツの水をかけ、ドレスを切り裂き、散々嫌がらせをした少女がエミリーに化けて侯爵家に嫁いできた世界最強の魔女だと言うことを……。
魔女が正体を明かすとき侯爵家は地獄と化す。
全26話、約25,000文字、完結済み。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
他サイトにもアップしてます。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願いします。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
花婿が差し替えられました
凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。
元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。
その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。
ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。
※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。
ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。
こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。
出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです!
※すみません、100000字くらいになりそうです…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる