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第二部
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しおりを挟むその頃、王城では。
「なぁ、エラ嬢の話、聞いたか?」
「ん?何の話だ?」
塔の外に見張りとして立つ騎士達の声が窓から漏れ聞こえ、元王太子チャーリーはピクリと反応した。あの婚約破棄騒動を起こし、ナスタジアへ冤罪を被せようとしたチャーリーは廃嫡となり王城の端にある古びた塔に幽閉されていた。
「魔法の勉強するって話だっただろ?かなり頑張ってるみたいだぞ。講師達からの評判も良いらしい」
一人の騎士はエラが暮らす男爵領へ派遣されている騎士と知り合いらしくエラの話を聞いたという。
「へぇ、意外だな」
「予想よりずっと早く授業も進んでいるみたいだ。今では隣国の仕事も請け負っているんだと」
「そいつはすげぇな」
「それがな、給金がとんでもなく良いらしい」
「えっ……じゃあ、あの塔で贅沢三昧か?」
「いや、エラ嬢は貯金するってまだ一銭も使ってないってさ。あそこから出た後の資金にするって考えのようだ」
「はぁぁ……人が変わっちまったみてぇだなぁ」
薄暗い部屋の中、チャーリーは小さく「エラ」と呟き、笑った。
『エラは早く塔から出ようと必死になっている』
『エラは一銭も使わず貯金している』
「……俺の為に」
可愛いエラ。俺を愛してくれたエラ。あの隣国の王太子とかいう男に頬を染めていたけれど、心が広い俺はあんな一瞬のことを咎めたりはしない。
可愛いエラ。堅物なナスタジアと違って、ありのままの俺を好きだと言ってくれたエラ。飾らぬ笑顔で見つめてくれたエラ。
可愛いエラ。俺を助ける為に必死で勉強し、必死で働いているエラ。可愛い、可愛いエラ。
薄暗い部屋の中、チャーリーの大きな笑い声が響き、見張り役の騎士達は「とうとう気が狂ったか」と憐れむように見ていた。虚ろな瞳で笑う彼は気が触れてしまったとしか思えない。
チャーリーが塔から忽然と姿を消したとジャック達へと報告が入ったのは、それから数日後のことだった。
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