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第二部
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しおりを挟むエラは便箋を取り出すとナスタジアへ手紙を書いた。ナスタジアが大きな誤解をしていることを説明し、ダブルベッドはエラが有難く使わせてもらうことを書くと、筆が止まった。しっかりと読めてはいないが、ナスタジアからのあの十枚に及ぶ手紙の返事がこれだけでは流石に不釣り合いに思えた。だが、ナスタジアのように書くことは殆ど無い。
「うーん、どうしようかしら」
エラは散々迷った末、やっと一行付け足すと封をし、また教師のところへと戻った。
『魔法の勉強は、嫌いではないです。』
◇◇◇◇
「エラさん、よくできていますよ」
「もうこの詠唱を覚えたのですか?」
「前回の復習もバッチリですね」
魔法を教えてくれる教師たちは褒め上手だとエラは思った。大げさだな、と思うことが殆どだが、大げさでも嘘でも褒められたらやはり嬉しい……実際にはエラが思った以上に勤勉なので教師たちも驚き、心から褒めているだけなのだが。
エラはマナー教育や淑女教育は大嫌いだった。元々物覚えも良くないし、前世の価値観からそれらが必要だとは全く思えなかったのだ。なのでマナー教育や淑女教育の家庭教師たちはエラを𠮟りつけてばかりだった。そのせいで余計に嫌いになる負のスパイラルに陥っていた。
魔法の勉強は沢山褒めてもらえるし、エラが前世から興味を持っていたものだ。自主学習にも力が入る。そして教師が来る時間も増えた。これまでは週一回お休みで、それ以外の午前中が授業だった。今も週一回のお休みは変わらないが、週に二回は一日中授業がある。
「これは、ジャック殿にお休みを与えるためでもあります」
あの倒れた日からジャックはエラの授業中はしっかり休憩を取ることになっている。エラの授業が一日中あれば、ジャックの休む時間は増える。
「ですが、それだけではありませんよ。エラさんが努力して私たちの信頼を少しずつ積み上げたのです。そして国王陛下からも今より長時間エラさんと一緒に過ごしてよいと許可が出たのです」
ああ、人はこうして信頼してもらうのか。エラの視界がぼやけた。それは嬉しさだけが理由ではない。そんな当たり前のことをきっとあの優しくて、少々、いやかなり過保護な彼女は何度もエラに教えてくれていた筈だ。それなのに今になってやっと気付いた自分への苦い思いから上手く息ができなくなった。
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