上 下
27 / 63
第二部

しおりを挟む


 エラは寝付けずにぼんやりと天井を眺めていた。どれくらい長い時間が経っただろうか。



「……喉、乾いた」



 だが、水を飲むためにはジャックがいるであろう扉の外を通らなくてはいけない。エラは首を振り、喉の渇きを忘れようとするが、一度気になってしまうと気になって仕方ない。


「別に、あんなやつ無視したらいいわ」


 ごそごそと立ち上がり、扉の方へ向かう。エラが扉を開けようとする前に、扉の外からガタンと物音が聞こえた。


「な、なによ」


 思わず身体を硬直させるエラだが、それから物音は聞こえない。恐々と扉を開ける。



「ちょ、ちょっと、ねぇ!あんた、ちょっと!ねぇ!」


 そこに見えたのは、全身に汗を滲ませ、息遣い荒く倒れているジャックの姿だった。




◇◇◇◇



「ハァ、ハァ、こんなものかしら」


 エラは慌てて自分のベッドへジャックを運ぶ。勿論自分の倍以上の体重がある大男をエラの細腕で運べる訳もなく、エラは飛行魔法を駆使してベッドまで運んだ。自分の身体だって浮かせてはいけないと言われていたエラだが、緊急事態ということでかなりの魔力を注ぎ込んで、ジャックをベッドへ寝かせた。



「後は……」


 エラは自分が寝込んだ時のことを思い出す。ナスタジアはいつも冷たくて気持ちの良いタオルを額に当ててくれた。エラはバタバタとタオルを引っ張り出して、桶に水を汲みタオルを濡らすとジャックの額へ当てる。



「……っ、へたくそ」


「お、おきたの?!」


「こんなベチャベチャなもの頭に置かれて、眠っていられるか」


「もう!うるさいわね!」


 エラは乱暴にジャックの額に置いたタオルを奪うと力任せに絞る。再度額に置くと「やっぱりへたくそ」と力なく笑うジャックにエラは胸が詰まり、言葉が出なかった。





◇◇◇◇


「どうしよう……」


 ジャックが一度目覚めてから何時間も経ったが、ジャックの熱は下がることは無くむしろ上がっている。ジャックの息遣いは苦しそうになるばかりだ。


 エラはこの森から出ることはできない。医者を呼びに行くことも、薬屋に走ることもできない。エラは頭を必死に働かせ、ハッと気付き紙を引っ張り出した。



「お義姉さま……」


 書いた手紙にエラは必死で魔力を込めた。先程ジャックをベッドに寝かせた飛行魔法のせいで魔力は殆ど使ってしまったが、残りの魔力を振り絞る。


 いつもこの塔に来る講師たちの方が、森のある男爵領で暮らしているのだから届く可能性も上がるだろう。だが、エラの頭には講師のことは抜け落ちており、必死でナスタジアへ届くよう祈った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

転生先は推しの婚約者のご令嬢でした

真咲
恋愛
馬に蹴られた私エイミー・シュタットフェルトは前世の記憶を取り戻し、大好きな乙女ゲームの最推し第二王子のリチャード様の婚約者に転生したことに気が付いた。 ライバルキャラではあるけれど悪役令嬢ではない。 ざまぁもないし、行きつく先は円満な婚約解消。 推しが尊い。だからこそ幸せになってほしい。 ヒロインと恋をして幸せになるならその時は身を引く覚悟はできている。 けれども婚約解消のその時までは、推しの隣にいる事をどうか許してほしいのです。 ※「小説家になろう」にも掲載中です

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...