【完結】就職氷河期シンデレラ!

たまこ

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第二部

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 翌朝。


 結局朝方まで寝付けなかったエラは目を擦りながら起きた。まだ眠気は強いが、今日から早速魔力のトレーニングが始まると言われている。シャワーを浴びようと、のろのろ起き上がり扉を開けると……。


「ああ。起きたか?」


「ひぃっ!」


 まさか部屋の前にジャックがいるとは思わず、エラは悲鳴を上げた。


「なっ、なんでここに……」


「そりゃ、俺はあんたの見張りだからな」


「……一晩中、扉の前に?」


「ああ、そうさ」


 エラはうんざりとしてしまった。貴族牢に入っていた時だって、勿論見張りは居たが女性騎士だったし、エラが見えないところに立っていたし、何より彼女たちは交代制だった。しかし、この塔にはエラとジャック二人しかいない。文字通り四六時中、この失礼な男と一緒なんて耐えがたかった。



「あなた……覗いたりしないでよ」


 シャワー室の前でエラはぎろりと睨んだ。


「へん。お前みてーなクソガキの裸なんて見たくもねーよ」


「何ですって!」


「下らねーこと気にしてないで、さっさと入ってこい」


 エラは怒りに任せて扉を強く閉めた。幸いなことに、シャワー室には鍵が付いておりホッと胸を撫で下ろした。昨夜散々泣いて腫れぼったくなった瞼や顔をゴシゴシと洗うと少しだけすっきりとした。


 エラはシャワーを終え、髪をタオルで乾かしながら、また果物でも齧ろうかとキッチンへ向かう。すると、ふわりと美味しそうな匂いが漂ってきた。ダイニングテーブルの上にはふわふわのスクランブルエッグや熱々のウインナー、焼き立てのパンが並んでいる。


「な、に……」


「ほら、さっさと食うぞ。お前の先生が来るんだろ?」


 素直に「食べてもいいの?」と聞けるような性格であれば、エラはここにはいないだろう。ジャックを不審そうに見つめて黙り込んだ。ジャックは面倒だと言わんばかりに顔を顰めると「お前、持たねーぞ」と呟いた。


「な……」


「お前はここに暫くいなきゃなんねーんだろ、それなのに昨日みたいに林檎一個じゃぜってぇバテる。身体じゃない、心が先に折れるんだ」


「何言って……」


「……昔、戦場に行ってた時だ。あんな場所、うまいもん一つ食えない。栄養食なんつーもんが渡されて、そりゃ栄養は摂れてるのかもしれねーが、どんどん心がやられていった」


 エラは黙り込んだ。戦場なんて、エラにとっては想像もできない。大体ここ数十年、この国は戦争とは無縁だった。ジャックはどこにいたのだろうか。


「だから、お前も食え。別に施そうなんて柄じゃねーよ。お前には他の家事をしてもらう」


 エラが椅子に座り、小さく「……いただきます」と呟くと、ジャックは「昨日の分まで食えよ」と食べきれない量を押し付けてくる。「エラ、もっと食べていいのよ」と微笑む彼女と重なった。

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