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第一部
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しおりを挟む「君には何の落ち度はないと思うんだけどね」
「……っ、だけど」
ナスタジアはぐりぐりとイザードの肩に顔を押し付けた。優しく頭を撫でられると、目に涙が滲んでくる。
「災害の後、もう少しエラに寄り添えたら、こんなことにならなかったんじゃないかって。エラも一緒にいられたんじゃ……」
「ナスタジア、あの多忙な中であれ以上エラ嬢を説得するのは無理だ」
男爵領を復興し、王太子の婚約者としての公務をこなし、ナスタジアは寝る間も無いほど働いていた。
「分かってる、分かってるけど……」
「うん」
「今日、エラに沢山酷いことを言った。あれは私の本心だった。だけど……本当は前みたいに仲良くしたい気持ちも本心なの」
エラに対して吐いた言葉が本当の気持ちだったのに、そんな言葉をエラへ吐いた自分をナスタジアは許せない。エラへの怒りと、エラを大切に想う気持ちが絡み合い、ナスタジアの心はぐらぐらと揺れていた。
「ナスタジア、君の妹のことはすぐに何かできるわけじゃない。時間が解決してくれることもあるかもしれないし、どんなに時間が経っても難しいかもしれない」
「……ええ」
「取り敢えず、今できることとして君の妹の罪を軽くできるよう嘆願書を国王陛下へ送ろう。彼女が改心したら、また考えたらいい」
「イザード……ありがとう」
頭の上から「可愛い婚約者の為だからな」と甘い言葉が降ってきて、ナスタジアの頬は緩んだ。
「イザードに頼りきりね」
エラのことだけではない。結婚について国王へ交渉したのも彼一人でしてくれた。それに……。
「男爵領のことも心配いらないから」
そう、ナスタジアが婚約破棄されることを裏で掴んでいたイザードは、ナスタジアの母が治める男爵領についても早いうちから考えてくれた。母は1年間の領地復興に疲れもあり、可能なら王家から代理人を派遣してもらい自分は領主代理を退き、ナスタジアと共に隣国に行きたいと考えていた。
律儀な母は領民たちへそれを説明したが、領民たちは母にいてほしいと願った。彼女の功績があまりに大きすぎたためだ。そこで領民たちと話し合いを重ね、イザードの手も借り、男爵領を隣国の領地にすることにした。男爵領が隣国に隣接していたため、不可能なことではなかった。これが、国王からのナスタジアへの慰謝料となった。
母は男爵領の家は手放し、ナスタジアや姉の住む近くに住まいを借りて、男爵領の経営は継続することにした。母の負担が少なくなるよう、イザードが優秀な文官たちを男爵領へ派遣してくれ、現場は彼らに任せることとなった。
相当な労力が必要だっただろうに、イザードは余すことなく手配した。全てはナスタジアと結婚する、このために。
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