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第一部

13(エラside)

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 平和な日々が、急に変わったのは昨年起きた大災害の時。エラの家はすっかり貧乏になってしまった。エラの家は、亡くなった父が領主を務めていた男爵家。こんな大変な状況で、流石に継母も領地経営を投げ出すだろうと思っていたが、継母は決してそうはしなかった。この国では女性が爵位を持つことができないため、領主代理という形で継母は必死に領地を治めてきた。上の姉は隣国に嫁ぎ、下の姉は領主経営のサポート、という形でそれぞれ母を支えていた。



 そんな中、エラは何もしなかった。

 そう、何にも。

 それはあることに気付いてしまったからだ。


「もう魔法使いが現れる時期を過ぎているわ」

 物語ではもうずっと前に魔法使いが現れているはずだ。ある日それに気付いてからは魔法使いが来る日を待ち続けることが日に日に辛くなり、状況を変えようと頻繁に舞踏会へ足を運ぶようになった。舞踏会に行けば何かヒントがあるかもしれないと考えたからだ。継母や義姉たちから「今はお金がないから行かないでほしい」と頼まれたら「血が繋がっていないから虐めるんだ!」と泣き叫んだ。

 魔法使いに会えない焦りが募り、毎日苛立つエラは気持ちのコントロールができなくなっていた。


 手伝いをするよう無理矢理連れ出された時は「私が義理の妹だから虐めるのでしょう!」と癇癪を起こした。そうすると手伝いに呼ばれなくなった。それほどエラは切羽詰まり、魔法使い探しで頭がいっぱいだった。





 そんな日々を過ごしていたら、チャーリー王太子に見初められた。彼は仕事ができる義姉に大層コンプレックスを抱いていて、落とすのは簡単だった。ちょっと馬鹿なふりをして、甘えて見せればすぐにエラを愛し始めた。流石に義姉と婚約破棄されるのは困ると思ったが、チャーリーが強引に進めエラには止められなかった。



 これで役者は揃った。物語と流れは違うが、漸く魔法使いが出てくる筈だ。

 そして、エラが考えた通り魔法使いはやって来た。あの本の挿絵にあった姿そのままの、美しい魔法使いがエラの目の前に現れた。だが、エラが極上の喜びに包まれたのはほんの少しの間だった。彼は義姉の隣に立ち、一瞬たりとも離れようとはしなかったのだから。


◇◇◇◇


「どうして、どうして、どうして……っ!!」

 ゴンッ、と鈍い音を立てて壁に拳を打ち付ける。どんなに声を上げても、美しい魔法使いはエラの前には現れない。



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