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第一部

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「それでは国王陛下、私たちはこれで失礼します」


「陛下、これまでのご厚情感謝申し上げます」


「うむ。イザード殿、うちの愚息が申し訳なかった。ナスタジア嬢、これまで国の為に心を砕いてくれてありがとう。私の言えることではないがどうか幸せになってほしい」


「陛下……」

 ナスタジアの目に涙が浮かぶ。

 実父は物心つく前に亡くなってしまい、母と再婚したエラの父も早いうちに亡くなったのでナスタジアは父親というものに縁がなかった。国王は、チャーリーの愚行を詫びるだけでなく、ナスタジアの意見をよく聞き国政に反映させてくれた。また公務以外の場でもナスタジアを可愛がってくれた、父親のような存在だった。だが隣国に嫁いでしまえば、もう今までのように話せることは無いだろう。


「陛下、また隣国に来られた際はぜひナスタジアにも声を掛けてくださいませんか。私の婚約者は、陛下と離れることを寂しがっているようですので」


「イ、イザード!」


「ははっ、勿論だとも。私も娘のようなナスタジアと離れることは辛い。次会ったら今までのように語り合おう、約束だぞ」


「は、はいっ!陛下!」

 ぱぁっと明るい笑顔を浮かべ、ナスタジアは頷いた。その顔は年齢相応の可愛らしい笑顔だった。彼女がチャーリーの婚約者になってからこんな顔は見たことがなかった。彼女にばかり負担を強いていたと、国王の胸は痛んだ。

「イザード殿。どうかナスタジアを頼みます」

 イザードは頷いた。国王の目にもまた涙が溜まっていた。


 「最後まで見送ろう」と言う国王に見送られ、二人の馬車は出発した。国王は大きく手を振り、ナスタジアも振り返した。それは、お互いの姿が見えなくなるまで続いていた。

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