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第一部
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しおりを挟む3人の周りでは、ざわざわと貴族達が騒ぎ続けていた。
「エラ嬢は『ニート』っつう訳か」
『ニート』という言葉にエラがビクリと反応した。ナスタジアの家では『ニート』という言葉は禁句だったのだ。『ニート』という言葉を出した貴族をエラは睨みつけるが、あまりに数が多すぎて追いつかない。
「あんなにダラダラして、ナスタジア嬢の母上の責任も多少あるんじゃないのか。育て間違ったんだろう」
チャーリーはちらりとナスタジアを見た。ナスタジアは自分のことを悪く言われるより、母親を悪く言われることを嫌った。だが、ナスタジアの表情は動かない。“『ニート』の責任=家族説”、はナスタジアや母が散々言われていることだったし、それに静かにブチ切れたナスタジアが国王陛下をも動かし、新聞や雑誌、書籍を活用し国民全体を教育している途中だったからだ。その教育が功を奏し、“『ニート』の責任=家族説”を唱える貴族は少なかった。
「いやいや、ナスタジア嬢の母上は後妻だろう。彼女とエラ嬢の父上が再婚された時にはエラ嬢が既に成人が近かった筈だ」
「大体、実母だとしても一概に家族と責任とは言えん。ニートになる要因には、環境・社会的要因や身体・精神に関する疾患、コミュニケーションスキルの課題等、様々な要因が複合していると言われている。本人や家庭だけで解決できることではない」
「ナスタジア嬢の働き掛けもあって、ニートに対する支援も広がっているからな。本人だけでなく家族も相談員へ相談出来たり、配慮を受けられる企業の紹介を受けたりすることもできるらしいぞ。そうした支援を受けながら解決できたらいいが、支援を受けることへ本人が反発したり、家族が消極的だったりするケースも多いようだ」
「就職氷河期の影響もあって、ニートは国内だけで57万人はいると言われている。同世代に占める割合は2%程度だ。クラスに一人いるかいないか程度にはニートがいるんだ。社会的課題だと捉えるべきだろう」
「潜在的な疾患や幼少期に見過ごされていた発達障害等が要因であることもある。医療機関との連携が必要なケースもあるが、専門機関が少ないことも現状だ」
身近な課題ということもあり、貴族たちの談議に熱が入った。一方、チャーリーは呆然としていた。自分は世間一般で『ニート』と呼ばれる人間を王妃に据えようとしていたのかと。いや愛妾ならまだ良かったかもしれない。だが、その場合王妃となる人は……。
国内の令嬢の中でも、王妃の素質があるとされていたのがナスタジアだ。爵位は低いと言えど、領主代理の母譲りであるリーダーシップや問題解決能力、文書処理能力に長けている。だからこそ、ナスタジアがチャーリーの婚約者に据えられたのだ。婚約破棄は明らかに悪手だったと気付かされた。
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