【完結】就職氷河期シンデレラ！

第一部

４

「それで、殿下。このような我が家の状況で、エラができることは何だったのでしょう？」


「お、お前のように領地経営に関する業務をさせれば良かったではないか！使用人のようなことはさせずに！」

　チャーリーの嚙みつきに、ナスタジアは心底可笑しそうに笑った。


「何が可笑しい！」


「お義姉さま！ひどいですわ！」

　エラの瞳にぶわりと涙が溜まった。随分便利な瞳だなぁ、とナスタジアは内心考えていた。こんな瞳を持っていたら婚約破棄などされなかっただろうか。ナスタジアは小さく首を振った……それなら、こんな瞳を持っていなくて良かったと。


「ふふふ。あんまり可笑しくて。殿下、もちろん私や私の母もエラがそうできればそうして欲しかったですわ」


「なら、なぜ……！」


「計算は駄目、文書作成も駄目、奉仕活動も駄目、領民へ労りの言葉はおろか挨拶すらできない。そんな人間を領民の前へは出せませんわ」


「お義姉さま、どうしてそのような酷いことを……。」


　大きく可愛らしい瞳からぽろぽろと涙を流すエラをチャーリーは優しく抱き締め、ナスタジアを糾弾しようと口を開いた。エラもチャーリーも二人の世界に酔いしれている様でそれがあまりに寒く、ナスタジアは鳥肌が立った。チャーリーが何か馬鹿げたことを言う前に周りの貴族達が口を開いた。


「エラ嬢は……どの領地も貧しく、着飾る暇も無い中、美しいドレスで街歩きをしていたな。物珍しさから小さい子どもたちが近付くと激怒して見ておれなかったわ」


「ああ、この前うちの領地で見掛けた時は、閉店している菓子屋に“なぜケーキを作らないのか！”と地団駄を踏んでいたな。どんなに可愛らしくてもあれは無い。大体明日のパンの小麦も無いというのに」


「平民に対しての態度も横暴だからな。あんな横暴な人間が王妃になるのは……」


　次から次へと出てくるエラのやらかし。淑女教育も真面目に聞いていないエラは感情を隠して素知らぬ顔を作ることもできずに、顔を赤くし怒りで震えていた。もっと、もっと言ってやってくれ、ナスタジアは表情を崩すことなく、心の拳を握った。

「エラ……？」


　チャーリーの心に落ちた一滴の疑い。それはじわじわと広がり続けた。貴族達の言うことが本当だったら？自分はとんでもないことを仕出かしたのではないかと、チャーリーは漸く気付き始めていた。