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しおりを挟むクラウディアの可愛らしいお願い事を聞く代わりに、バーネット公爵家を訪ねることを許されたテオドールは、すぐ出発した。バーネット公爵の屋敷に辿り着き、応接室に通される。そこには、眉間に深い皺を寄せた、いかにも機嫌の悪そうな、渋い表情をした公爵が待ち構えていた。そこで彼から聞かされた、予想していなかった言葉に、テオドールは目を丸くした。
バーネット公爵との長い話し合いが終わり、テオドールは、屋敷へ戻る馬車の中で頭を抱えていた。
「彼女に何と説明したら良いんだ……。」
◇◇◇◇
クラウディアは、父親から愛された記憶がないと言った。物心つく前に、母親は病で亡くなっており、父一人子一人の家庭だった。上昇志向の強い仕事人間の父は、クラウディアの世話を使用人や家庭教師へ任せ、家で顔を合わせることを殆ど無かった。
「だが、バーネット公爵は再婚されなかったのだな。」
「はい。恐らく、父の利になるような高位貴族の女性たちは既に結婚されていたのだと思います。父は無駄なことは一切しませんので。」
「そうか……。」
テオドールは少し引っかかっていた。確かに、クラウディアの父は公爵という立場であり、立場が近い女性は少ない。しかし、立場は低くとも経済的に潤っていたり、他国との関係が強固だったり、何かしら後ろ盾になるような家はある。そんなことを、あの有能な国務大臣であるバーネット公爵が気付かないものだろうか。
だが、クラウディアの、悲しみに満ちた瞳を見ると、一度も愛されたことがないと悲鳴を上げている心に触れると、テオドールはそれ以上話を続けることは出来なかった。
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