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 アネット=ウィルキンソン侯爵令嬢。

 無能な王太子の、素晴らしい婚約者を蹴落とした悪役令嬢として、世間では認識されている。あの婚約破棄から、二週間。未だに、王城内で冷たい視線に晒されている。だが。



(今はまだ我慢の時ね。)



 アネットは、落ち込むことなく、黙々と公務をこなしていた。無論、それはクラウディアが担っていた、本来はレジナルドが行う公務だ。



(クラウディア様が仰っていたように、大変な仕事だわ。)


 婚約破棄を企ててから、クラウディアが秘密裏に全てを教えてくれていなければ、絶対に投げ出していただろう。だが、クラウディアが丁寧に教えてくれ、細かな引き継ぎ書まで作成してくれていたこと、また元々アネットは要領が良いこともあり、公務はスムーズに行えている。


 そして、この大変な業務を、スムーズに進めていることで、アネットは一部の文官からは一定の評価を得られていた。そして、アネットが更に評価を受けていることがもうひとつ。




「ほら、アネット。終わったぞ。」


 レジナルドが得意げに持ってきた公務は、アネットが捌いている量の一割にも満たない。だがアネットは。



「レジナルド様!素晴らしいですわ。流石王太子様ですわね。」


 うっとりとレジナルドを見つめるアネットと、より得意げに胸を張るレジナルド。周りにいる文官や使用人たちは、この二週間で二人のイチャイチャに対して既に辟易していたが、このアネットの扱いのお陰で、レジナルドが今まで一ミリも触っていなかった公務に触るようになったのだ。このことを、周りの者は評価し始めている。




(ふふふ。ちょっぴり仕事をしただけで、こんなに胸を張って……レジナルド様、素敵すぎますわ!好き!)



 アネットは少しずつ、賢妃と称される道を進んでいる……ここまで拗らせているとは、気付かれないまま。
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