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「王宮侍女の方でした。クラウディア様にお伝えしたいことがあると仰っています。」


 メイドの説明に、クラウディアは頭を捻った。


(誰かしら……。)



 というのも、クラウディアは執務は王宮でしていたものの、生活しているのは公爵家だったので、王宮で侍女はついていなかった。執務室でクラウディアの周りにいたのは、イケオジの文官と使用人だけだった。





「クラウディア様!」



 不思議に思いながら応接室を開けると、そこにいたのは侍女服姿のアネットだった。




◇◇◇




 アネットは、目立たぬよう侍女に変装して来たという。ジョアンナが人払いしてくれ、ジョアンナとサムだけが立ち合うようにしてくれた。クラウディアはアネットに、二人は事情を知ってるから、と説明した後抱き締め合った。



「アネット様。あれから大丈夫でしたか?」



「ええ。バッチリでしたわ!あの王太子のダメダメっぷり!堪りませんわ!」



 あの話し合いの後も、レジナルドはクラウディアの文句を言ったり、公務を拒否したり、と自己中心的な態度だったようだ。だが、アネットはそれすらも愛しいらしい。アネットのぶっ飛び具合を見て、サムもジョアンナも大いに引いていた。



「ふふふ。アネット様のお顔を見れただけでホッとしました。そう言えば、アネット様、なぜ私とテオドール様が婚約となったのですか?」




 クラウディアとアネットの当初の予定では、クラウディアは公爵家を抜け、平民となる予定だった。それがなぜかテオドールとの婚約に変わっていた。




「クラウディア様が、市井の屋台で出会った男性を調べておいたのです。そしたらモーズリー公爵だと分かり、彼と結婚したいのなら、クラウディア様が公爵家を出ない方が良いと判断しました。」


 後は、レジナルドを少々誑かし、クラウディアがテオドールと婚約できるよう手筈を整えた、とアネットは付け加えた。


「そうだったのですね。色々と考えていただきありがとうございます。」



 アネットの優しさが嬉しいのに、それを駄目にしてしまいそうな自分が恥ずかしくて、クラウディアは思わず目を伏せた。



「クラウディア様?もしかして、モーズリー公爵から無体を働かれたのですか?」



 アネットの問いを聞いたサムとジョアンナは、吹き出しそうなのを必死に堪えた。


「む、無体なんて……!テオドール様はお優しい方ですわ……。」



「では、なぜそんな顔をなさるのかしら?」



 アネットから問われ、昨日から不安でいっぱいだったクラウディアは、テオドールとのやり取りを全て吐き出した。話が進む内、アネットの可愛らしい顔が怒りに滲むのが分かり、クラウディアは、思わずサムとジョアンナの方を振り返る。しかし、二人もアネットと同じ顔をしていた。





「……貴方達の主人は、不能ですの?」



 天使のような可愛らしさを持つアネットの口から、信じられない言葉が飛び出す。クラウディアは目を丸くした。



「そうではないと信じたいですが……女性に全く慣れてないのです。」


 サムは苦々しい顔をして答えた。




「それならクラウディア様!モーズリー公爵のベッドに潜り込むのです!」




 自信満々のアネットと、それに乗り気なサムとジョアンナ。だが、クラウディアは首を振った。



「それはいけません。」



「どうしてですの?」



 クラウディアは、涙をぽろぽろ流しながら言葉を紡いだ。








「私……テオドール様に好きになって貰いたいのです。」



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