【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ

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 悪いニュースは重なるものだ。ある晴れた日、アメリアは一番の友人である侯爵令嬢シルヴィアの屋敷を訪問していた。シルヴィアもまた、アメリアが苦手としているアーネストが来訪していることを知り、アメリアの逃げ場所を確保してくれている良き理解者だ。最近ではしょっちゅう彼女の屋敷に入り浸っている。

 中庭で二人でお茶をしている間、シルヴィアは珍しく落ち着かない様子だった。いつもならハキハキとした物言いをする彼女が言葉を選んでいるようで、アメリアまで落ち着かなくなったほどだ。ポットの紅茶が無くなりかけた頃、シルヴィアは意を決したように口を開いた。

「アメリア……その……」

「シルヴィア、どうしたの?」

「レイナルド殿下のことなのだけど」

「ええ」

 シルヴィアは視線を彷徨わせた後、アメリアを気遣うような瞳で言葉を続けた。


「……学園で、その懇意にしている方がいらっしゃるようなの」

「え……レイ様が?」

 アメリアは目を丸くした。悲しみより、怒りより、まず驚きの方が大きかった。レイナルドは心を開く迄時間が掛かるのはアメリアが一番知っていることだ。レイナルドが学園に入学してまだ一か月ほどだというのに……この短い間でレイナルドはその女性に心を開いた、ということなのだろうか。


 シルヴィアがその話を知ったのは、彼女の婚約者ナイジェルもまた今年学園に入学したレイナルドの同級生だからだ。ナイジェルによると、不適切な距離感で女子生徒と過ごすようなことは決して無いということだが、仲が良いのは事実のようで、それを邪推して大袈裟に噂を広める者もいるらしい。


「嫌な話をしてごめんなさい。だけど他の場であなたが聞かれたらと思ったら……」

「ありがとう、シルヴィア。こちらこそ嫌な話をさせてしまってごめんなさい」

 シルヴィアは何も意地悪な目的でアメリアに伝えたのでは無い。アメリアに悪意を持った令嬢達からこの話題を振られたら、そしてそこで動揺してしまったら……アメリアを蹴落とそうとしている人間にとって絶好のタイミングとなるだろう。それを防ぐためにシルヴィアは心の準備をさせてくれたのだ。
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