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しおりを挟むレイナルドの社交デビューを無事終え、二人の距離は少しだけ縮まった。レイナルドから贈られたドレスを着て舞踏会に出席した夜のことを思い出すたびにアメリアの頬は緩む。毎日機嫌よく過ごしていたアメリアだったが父クラーク公爵により彼女にとって少々悪いニュースがもたらされた。
「アーネストお兄様が留学、ですか?」
「ああ、デリンラードでは王族は学生の間に留学することが推奨されているからな」
父によると、隣国デリンラードの王太子でありアメリアの従兄でもあるアーネストがこちらの国に留学のため三か月ほど滞在するという。アメリアは眉を寄せ小さく息を吐いた。アーネストはレイナルドと初めて会った時も、その後何度か公務の為に会った時も彼へ嫌な態度ばかり取っていた。レイナルドを傷つけるような人間は、例え従兄であっても、隣国の王太子であってもアメリアは許せなかった。
「アメリアが不機嫌な顔をするのは珍しいな」
「アーネストお兄様はレイ様に意地悪ばっかりなんですもの。私、会いたくありません」
「う~ん……それが殿下の留学中はこちらの屋敷に滞在する予定なんだ」
「えっ……そんな……お父様、何とかなりませんか?」
公爵は苦笑いを浮かべた。幼い頃から全く我儘の言わない可愛い娘の願いは聞き遂げてやりたいが、こればっかりはどうしようもない。
「本来なら王宮でお願いするところなんだが、殿下がこちらの方が良いと言ってね。陛下と相談して、やっぱり王宮に滞在して貰おうか。あちらの方が警護もしやすいだろうしね」
「なっ……お父様、それでは全く意味がありません」
「そうだねぇ」
「……我慢します」
「いいのかい?」
「王宮に行かれるよりマシですから……ですが、滞在中は学園に通われるのでしょう?」
「ああ」
「学園でレイ様が意地悪されたら……」
「アメリア」
悲しそうに考え込むアメリアへ、父は真面目な顔で呼び掛けた。
「確かにアーネスト殿下の意地悪はあまり褒められたものじゃないよ。だけど、レイナルド殿下はこの先社交界で沢山の意地悪に晒されることになる。王族には付きものなんだ、嫌なものだけどね。だから、レイナルド殿下はアーネスト殿下の意地悪くらい跳ね除けられる力を付けなければならないんだ」
アメリアは項垂れて退室した。
レイナルドは幼い頃から随分と変わった。王子教育も真面目に受けるようになったし、社交だって苦手意識はあるものの懸命にこなしていることをアメリアはよく知っている。レイナルドに対する父からのお小言は、自分が言われるよりもずっと辛く、悲しかった。国王の右腕でもある父が、レイナルドを評価していないことが堪らなく悔しかった。
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