【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ

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 時は遡り、アメリアが五歳になったばかりの頃、アメリアは父であるクラーク公爵の執務室に呼ばれた。部屋に入ると母も父の隣に腰掛けている。向かいのソファに座らされ、アメリアは落ち着かない気持ちで父の言葉を待った。


「アメリア。お前の婚約者が決まったよ」

 父であるクラーク公爵にそう言われ、アメリアは目を見開いた。既に始まっている淑女教育でいつか婚約者が決められるとは聞いていたがまさかこんなに早く決まるとは思っていなかった。


「お相手はどなたですの?」

「第二王子のレイナルド殿下だ」

「レイナルド、殿下……」

 婚約者の名前を聞き、アメリアはもう一度目を見開いた。幼いアメリアはレイナルドがどんな人物かは知らないが、相手が王子殿下だと知り戸惑いを隠せない。そんなアメリアの気持ちを察したようでクラーク公爵は苦笑いを浮かべた。

「アメリア」

「……はい」

「あまり身構えなくていい。もしどうしてもアメリアがレイナルド殿下との婚約が難しいと思ったら無しにすることもできる。ただ……」

「……?」

「……ただ、レイナルド殿下と仲良くなれるよう少し頑張ってみて貰えないだろうか」

 アメリアは少々混乱した。言葉を選びながら話す父も、アメリアに何かを頼む父も、初めて見たからだ。隣の母が「あなたったら」と困ったように笑っている。


「アメリア。あまり難しく考えなくていいの。まず、お父様と一緒にレイナルド殿下と会いに行きましょうね」

 母の笑顔を見て、アメリアは漸く安心した。後日、レイナルドと初対面を果たしたアメリアだが、彼のあまりに酷い態度に散々な思いをした。もう会いたくないと愚図るアメリアを抱っこしながら公爵夫人は優しく語った。


「レイナルド殿下は、辛い思いを沢山してきたの」

「辛いこと?」

「ええ。だから人に優しくしたり、笑ったりすることが苦手かもしれない。人と仲良くなるのに少しだけ時間が掛かるかもしれないわ。だけどね、心の奥底は優しい方なの」

「じゃあ、どうしたら仲良くなれる?」

「そうね。殿下の言葉ではなく、行動を観察してみるのはどうかしら」

「行動?」

「殿下は優しい言葉を掛けるのは少し苦手かもしれないわ。でも行動は嘘が付けないの……殿下の優しさが見える筈よ」

 少々難しい話に首を傾げるアメリアだったが、少し経つと母の言葉を理解できた。


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