【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ

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「殿下は手紙一つ送ることはできないのでしょうか」

「は?」

「ミ、ミリー、待って」

 侍女の不躾な言葉にアメリアは顔を青くして慌てて止めた。だが当の本人はふんとそっぽを向き、レイナルドに視線を戻した後話を続けた。


「社交デビューのエスコートを依頼する手紙は通常二か月前には相手に送られるものです。殿下が社交デビューされる舞踏会はもう一か月後ですが公爵家に手紙は届いておりません」

「……っ」

 ミリーの言う通り、エスコートの依頼をするのであれば二か月前には手紙を送る必要がある。準備のためどうしてもそれだけの時間が必要になるからだ。

 社交デビュー時、婚約者が決まっていない者も多い。その場合は家族や親族と共に参加することになる。だが、レイナルドのように既に決まった婚約者がいるのにその相手をエスコートをしないなんて有り得ない。アメリアのように年下の婚約者であってもこの日だけは舞踏会への出席を許可されるため、アメリアが社交デビューの年齢に達していないからなんて言い訳は通用しない。


「殿下はうちのお嬢様をエスコートされないおつもりですか。もっと胸元が豊かな令嬢が宜しいのでしょうか」

「な、なに言って……」

 目を丸くして二の句が継げなくなっているレイナルドを見て、控えていた侍従ルパートは心底愉快そうに笑みを浮かべている。


「お嬢様がずっと気にしているのですよ。殿下と年齢の違いがありますからね、もっとセクシーな方がタイプなのでは、と」

「ミリー!!」

 慌てて立ち上がるアメリアだがミリーは止まらない。


「それでエスコートの手紙が来ないのではないかと。自分が婚約者として未熟だから、エスコートしたくないのではないかと。それでも毎日毎日殿下からの手紙を待つお嬢様のお気持ちを考えたことはありますか。大体、殿下は……」


「ミリー、もう止めて」

 ぽたぽたと零れるアメリアの涙を見て、ミリーは漸く不満そうに口を閉ざした。


「……レイ様、申し訳ありません」

「アメリア」

 レイナルドは複雑な表情のまま、丁寧にアメリアの涙を拭き取っていく。そこで滅茶苦茶になった茶会を楽しんでいたルパートが手を挙げた。


「アメリア様」

「はい」

「発言をお許しいただけますか。……このままでは殿下が不憫ですので」

「……?ええ」

「ルパート」

 咎めるように名を呼んだレイナルドだったが、「アメリア様に許可をいただきましたので」と聞く耳を持たない。どいつもこいつも主の話を聞かない者ばかりだ。


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