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しおりを挟む「殿下」
ぐったりとベッドに倒れ込んだレイナルドを少し咎めるようにルパートは声を掛けた。
「少し大目に見てくれ……今日は疲れた」
あの後、レイナルドはアメリアと一緒にチャールズとエリザベスの元へ戻った。美味しそうに苺のスイーツを頬張るアメリアを見ていたら、茶会を中断させてしまったことへの罪悪感が擡げた……が。
「アメリア様、シェフがリクエストを聞いて下さるそうなの。お好きなスイーツを何でも仰って」
「まぁ素晴らしいですね……でしたらキャンディはお願いできますか?」
おずおずと頼むアメリアのオーダーに目をぱちくりとさせたエリザベスとシェフ。レイナルドの好物を知っている兄は可笑しそうにけらけらと笑い声を上げており、レイナルドは小さく睨むしかできない。
「お任せください!」
シェフは張り切り、胸を叩いた。そうして暫く経ってから持ち運ばれてきたのは、美しい飴細工の数々だった。花や鳥を模したそれらを見てアメリアは嬉しそうに声を上げたが、レイナルドの表情を見て心配そうに「飴細工では駄目でしたか……?」と耳打ちするのでまた頬を抓ってやった後、欠片をアメリアの口に放り込んだ。
「あ、あま……」
「ふん」
そう、飴細工の飴は甘すぎる。レイナルドの好む既製品のキャンディと違うのだ。想像以上の甘さに目を丸くしているアメリアの口にまた欠片を放り込んだ。
「随分、仲良くなったんだね」
「な……兄上」
チャールズを睨みつけるが、彼は嬉しそうに笑うだけだ。隣のアメリアもへにゃへにゃと緩んだ笑いを見せ、エリザベスは揶揄うように微笑んでいる。こんな視線に晒されたことの無いレイナルドはすっかり参ってしまったのだった。
「殿下、先日お話ししたアメリア様のことですが」
「……なんだ?」
ベッドに寝そべったまま、不機嫌な声が返ってくる。ルパートは苦笑いを浮かべ口を開いた。
「アメリア様へ色々とお思いになっているでしょうが、ご自分の行動はお許しになっても良いのではないかと」
「……どういう意味だ」
「殿下はいずれアメリア様が離れていくとお思いになっていますよね。仮にアメリア様が殿下から離れていったら、不幸になってほしいですか?」
ガバリと起き上がったレイナルドは眉間に皺を寄せ、小さく首を振った。
「……そんな下衆なことは思っていない。ただ……」
「ただ?」
「……笑っていてほしい」
ルパートは心得たように大きく頷いた。
「そうですね。でしたら、殿下が今ご自身に納得できない行動……アメリア様へ優しくすることは、そう悪いことではないのですよ」
「ん?」
「第二王子に大事にされた婚約者と、大事にされなかった婚約者……もし殿下とアメリア様が婚約を解消された場合、どちらが外聞が良いか分かりますよね?」
「……っ、そうか……」
王族に大事にされた令嬢なら、結婚相手にもその家族にも大切にされるだろう。だが、その反対の場合、捨て置かれてしまうかもしれない。
「ですから殿下、アメリア様に優しくされても良いのですよ」
ルパートの言葉に、主は幾分安心したように小さく頷いた。
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