14 / 55
14
しおりを挟むアメリアはきょろきょろと辺りを見渡し、広い中庭を進む。なかなか見つからずに苦戦するが、漸く奥にある生垣の影にレイナルドが座り込んでいる姿を見つけた。
「……レイ様」
「……」
レイナルドの隣にしゃがみ込み声を掛けるが、黙り込んだレイナルドはアメリアと視線を合わそうとはしない。
レイナルドはいつも笑うことは無い。不機嫌な顔か困った顔しか見せない……最も彼をいつも困らせているのはアメリアだが。だが不機嫌な顔の時でも、本当に不機嫌なのかどうかは一年以上婚約者をしていたら分かるのだ。今レイナルドはすごく不機嫌だ。それに気付くと、アメリアは胸がぎゅっと痛くなった。
「……レ、レイ様、ご、ごめんなさ」
エリザベスはアメリアは悪くないと言ってくれたけれど、やはり何か失言してしまったのだろう。じわりと目に溜まる涙が零れ落ちる前に、レイナルドは少し乱暴にアメリアの少しふっくらした頬を抓った。
「レ、レイひゃま……?」
「……お前は意地悪だ」
「ふぇ?」
「お前は意地悪だ」
「わ、わたくし、レイひゃまにいじわるなんかしましぇん!」
初めて見る、眉を寄せムッと怒った表情にレイナルドは少したじろぐと抓っていた手を離した。きりっとした眼差しに思わず圧倒されてしまう。
「私は一生……っ、絶対にレイ様に意地悪なんてしません!それに!もしレイ様に意地悪をするような人がいれば私がやっつけます!」
アメリアは小さな拳を握るとファインティングポーズを取った。レイナルドは眉尻を落とし、何とも形容し難い表情を見せた。
こんな小さな手で、細い腕で、どう戦うと言うのだろう。だがアメリアは大真面目だ。絶対にレイナルドを守るのだと強く想っているのだ。
ああ、やっぱりお前は意地悪だ。
どうせいつかは俺の前からいなくなってしまうのに。
俺のことをいらないと突き放す筈なのに。
他の男の元に行ってしまうのに。
そのくせ、こんなにも心乱してくるなんて。
大きく宣言したアメリアは、レイナルドと目が合うとにこりと笑った。それがまた腹立たしくて、レイナルドは意地悪な婚約者の整った鼻を抓るのだった。
37
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説

【完結】ストーカーに召喚されて溺愛されてます!?
かずきりり
恋愛
周囲に合わせ周囲の言う通りに生きてるだけだった。
十年に一度、世界の歪みを正す舞を披露する舞台でいきなり光に包まれたかと思うと、全く知らない世界へ降り立った小林美緒。
ロドの呪いを解く為に召喚されたと言われるが……
それは……
-----------------------------
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?
バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。
カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。
そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。
ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。
意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。
「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」
意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。
そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。
これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。
全10話
※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。
※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。
※小説家になろう様にも掲載しています。
私の容姿は中の下だと、婚約者が話していたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
想い合う二人のすれ違いラブストーリー。
※以前掲載しておりましたものを、加筆の為再投稿致しました。お読み下さっていた方は重複しますので、ご注意下さいませ。
コレット・ロシニョール 侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・デュボワ 公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・ノアイユ 辺境伯家嫡男。コレットの従兄。
ルネ ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 子爵令嬢。
〈あらすじ〉
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま大好きな婚約者のそばにいれば疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー

侯爵令嬢はざまぁ展開より溺愛ルートを選びたい
花月
恋愛
内気なソフィア=ドレスデン侯爵令嬢の婚約者は美貌のナイジェル=エヴァンス公爵閣下だったが、王宮の中庭で美しいセリーヌ嬢を抱きしめているところに遭遇してしまう。
ナイジェル様から婚約破棄を告げられた瞬間、大聖堂の鐘の音と共に身体に異変が――。
あら?目の前にいるのはわたし…?「お前は誰だ!?」叫んだわたしの姿の中身は一体…?
ま、まさかのナイジェル様?何故こんな展開になってしまったの??
そして婚約破棄はどうなるの???
ほんの数時間の魔法――一夜だけの入れ替わりに色々詰め込んだ、ちぐはぐラブコメ。

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

婚約破棄させてください!
佐崎咲
恋愛
「ユージーン=エスライト! あなたとは婚約破棄させてもらうわ!」
「断る」
「なんでよ! 婚約破棄させてよ! お願いだから!」
伯爵令嬢の私、メイシアはユージーンとの婚約破棄を願い出たものの、即座に却下され戸惑っていた。
どうして?
彼は他に好きな人がいるはずなのに。
だから身を引こうと思ったのに。
意地っ張りで、かわいくない私となんて、結婚したくなんかないだろうと思ったのに。
============
第1~4話 メイシア視点
第5~9話 ユージーン視点
エピローグ
ユージーンが好きすぎていつも逃げてしまうメイシアと、
その裏のユージーンの葛藤(答え合わせ的な)です。
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる