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しおりを挟む「レイ、アメリア嬢、よく来てくれたね」
「レイナルド様、アメリア様、お待ちしておりましたわ」
この日は、チャールズとエリザベスの開くお茶会に招待されていた。参加者は四名だけの小さなお茶会だ。レイナルドはアメリアのエスコートをエリザベスから厳命されており、馬車口で待機していた。レイナルドを見るなりふわりと零れるように笑みを浮かべる彼女へ誰が冷たくできると言うのだろう。上手く会話もできないまま、二人が初めて出逢ったあの中庭へ小さな手を取って向かった。
「さぁ座って頂戴。今日は沢山美味しいスイーツを食べましょ!」
テーブルには色とりどりのスイーツ、フルーツパフェ、苺のタルト、アップルパイ、プリンアラモード、そして数種類のケーキが並んでいる。
「まぁ、こんなに沢山!美味しそうです!」
「ふふ。チャールズが私のお気に入りのカフェのシェフを特別に呼んでくれたの」
「まぁ!」
アメリアが嬉しそうに声を上げたのはエリザベスお気に入りのカフェのスイーツが食べられるから、ではない。お互いに見つめ合うチャールズとエリザベスがとても幸せそうでアメリアまでうっとりしてしまったからだ。
「ほら、さっさと食え」
二人に見惚れているアメリアにレイナルドはぶっきらぼうに声を掛けた。だが彼はせっせと苺のスイーツだけを選び、アメリアの周りに置いている。
「レイ様、ありがとうございます」
アメリアが嬉しそうに微笑むと、レイナルドは決まり悪そうに視線を逸らした。レイナルドが取ってくれた苺のマカロンを手に取り、にこにこと口を付ける。そんな二人をチャールズとエリザベスも笑顔で見守っていた。
「アメリア様は六歳とは思えない程、淑女らしい振る舞いが身に付いておられるのですよ。教師の皆様からもいつも褒められていますの」
「僕もアメリア嬢の優秀さはよく耳にしているよ」
「そんなアメリア様がレイナルド様の前だけではコロコロと表情を変えられるところがまたお可愛らしくて」
アメリアは照れ笑いを浮かべ、口を開いた。
「私の母がよく話しているのです。淑女とは常に微笑み、感情は隠すもの……だけど愛する人の前だけではたくさん気持ちを見せて良いのよ、と」
「ゴホッ、ゴホッ!」
「レ、レイ様?!大丈夫ですか?」
「……っ、ああ」
急に咳き込んだレイナルドに目を丸くし、必死に背中を撫でるアメリア。「……大丈夫だから」と言われ、漸く息を吐いた。
「公爵夫人のお言葉、とても素敵ね」
「ああ。公爵夫妻はおしどり夫婦だと社交界でも有名だしな」
アメリアの父、クラーク公爵が学生時代に隣国へ留学中にアメリアの母を見初めたことは社交界ではよく知られている。隣国の王女だったアメリアの母を娶るには数えきれないほどの壁があったようだがクラーク公爵は難なく乗り越え、王女を口説き落とした。当時のことは観劇の演目にすらなっており、今でも若い女性たちを中心に人気である。
「ありがとうございます。私もレイ様と両親のように仲の良い夫婦になりたいのです」
「……っ」
「レイ様?」
レイナルドはとうとう耐え切れず席を立ってしまった。アメリアは何か失言をしてしまったのかと顔を青くしている。「アメリア様は何も悪くないわよ」と苦笑いするエリザベスの言葉に多少ほっとするものの、不安は消えないままだ。
「アメリア嬢、レイナルドを迎えに行ってやってくれないか?」
「で、ですが……」
「アメリア嬢が行くのが、一番喜ぶからさ」
チャールズは可笑しそうに笑ってそう言った。アメリアは言われるがまま歩き出した。
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