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しおりを挟むその翌日は宰相と、翌々日は騎士団長と面会した。二人はどちらも国王の忠臣であり、レイナルドを差別しない貴重な大人だった。彼らにアメリアを紹介すると「可愛らしく優秀な婚約者を迎えられましたね」「婚約者を大事にするんですよ」と温かく迎えられる。だが、ある言葉にレイナルドは肝を冷やした。
「アメリア嬢には、うちの息子の婚約者になってほしいと思っていたのですがね」
宰相と騎士団長がそれぞれそう話すと、お世辞のようなものだろうとアメリアはにこやかな笑顔で受け答えしていた。だがレイナルドにはそれが世辞ではないとよく分かっていた。この年齢でこれほど優秀なアメリアだ、令息の婚約者にと考えていた高位貴族も多いだろう。そして彼らは、自分よりずっと優秀で見目の良い男ばかりだ。
……そんなことは分かっていた。
アメリアはレイナルドの悪評を知らないだけ。
アメリアはレイナルドよりずっと素晴らしい令息が沢山いることを知らないだけ。
アメリアは政略結婚の相手に選ばれただけ。
分かっていた、筈なのに。アメリアが望めばいつでも喜んで解放しようと思っていた筈なのに。宰相と騎士団長の言葉が鉛のように重くのしかかってくる理由をレイナルドは未だに分からない。
「……さま、レイ様?」
ハッと我に返ると、心配そうに顔を覗き込むアメリアが視界いっぱいに広がった。
「婚約者様といるのにぼんやりしているなんて!」
アメリアの隣に立つレイナルドの侍女が厳しくそう言うとルパートも大きく頷いた。
今日は挨拶回りの最後の日。レイナルドの身の回りの人間にアメリアを紹介していた。いつもお茶会で控えているルパートは勿論、レイナルドが信頼している侍女たちにも紹介した。
「アメリア様にお仕えできる日を心待ちにしております」
彼女たちが嬉しそうにそう言うと、アメリアもまた顔を綻ばせた。アメリアがレイナルドと結婚するのはどんなに早くても十年以上後だ。それを楽しみにしてくれている存在がいることがアメリアを勇気づけた。
「レイ様、沢山の方にご紹介していただいてありがとうございます」
「いや……」
アメリアは嬉しそうに微笑んだ。レイナルドが王宮の主要人物や信用における使用人たちに婚約者を紹介したことで、紹介を受けた人間だけではなくそれを見ていた人間にもアメリアが大切にされていることを印象付けることができただろう。そしてその噂はすぐに広がるだろう。アメリアの悪評なんてあっという間に払拭されるはずだ。
「レイ様、私、頑張ります。レイ様の自慢のお嫁さんになれるように、いっぱいいっぱい勉強します。絶対頑張りますから!」
「なっ……」
後ろでは侍女たちのきゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえている。だがレイナルドは本当は首を振りたかった。もう頑張らなくて良い、と。こんな自分の為に辛い思いをしなくて良い、と。だが、胸が詰まり上手く呼吸ができず言葉にならなかった。
「……アメリア、そろそろ帰る時間だ」
「はい!」
侍女たちの視線から逃げるように、遠慮がちにアメリアの手を取ると、アメリアはまたぎゅっと手を握ってきた。それがどれだけレイナルドの心を乱すのか分かっているのかと腹立たしくなりながら、レイナルドは心を無にしようと頭を振った。
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