【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ

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 アメリアとの茶会の日、レイナルドが庭園の東屋に向かうと珍しくアメリアが先に座っていた……勿論可愛い瞳にたっぷりと涙を溜めて。


「お前……」

「も、申し訳ありません……」

 レイナルドが声を掛けた瞬間、ぽたぽたと涙が溢れだした。ポケットを探るが、生憎ハンカチを忘れているようだ。侍従のルパートの方をちらりと見るが首を振られてしまう。レイナルドは小さく溜め息を吐くと「……我慢しろよ」とごしごしと服の袖でアメリアの涙を拭った。


「殿下、ありがとうございます」

 あれほど悲しそうにしていたのに、アメリアは嬉しそうにへにゃりと笑った。


「……忙しい奴だな」

 肩をすくめた後、何故泣いたのか問うとアメリアの目にまた涙が浮かんでしまう。


「お、お勉強が難しくて」

 今日は特に上手くいかず、早めに授業を打ち切られてしまったのだとアメリアは小さな背中を震わせた。レイナルドは「なんだ、そんなことか」と言いかけるがルパートに睨まれてしまいグッと堪えた。ルパートもアメリアを大切にするようにと口うるさい人間の一人だ。


「……お前はまだ五歳だろう。兄上の婚約者だってもっと後から始めたんだ。別に慌てなくたって……」

 アメリアは大きく首を振った。


「私、殿下の自慢のお嫁さんになりたいのです」

「なっ……!」

 顔に熱が一気に集まる。ルパートがにやにやと見ているのは気付かなかったことにして、レイナルドは誤魔化すように溢れ出したアメリアの涙を袖で拭いてやる。アメリアは涙を堪えようと必死で顔を顰めている。


「……何だ、その顔は」

「で、殿下のお召し物をこれ以上汚す訳にはいきません」

「……別に構わん」

 ごしごしと乱暴に拭いていると、アメリアはまだ泣いている癖に嬉しそうに微笑んでいる。「……器用な奴」レイナルドが呆れたように呟いてもアメリアはやっぱり笑っていた。


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