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しおりを挟む数週間後。
「……殿下」
緊張した面持ちでアメリアがレイナルドに近付いてくる。顔合わせの時、アメリアに散々失礼な態度を取ったレイナルドはその後王妃から厳しく叱られた。そして仲を深めるために週に一回お茶の時間を設けること、アメリアに優しく接することを約束させられた。
アメリアは毎日王城で王子妃教育を受け、レイナルドの兄チャールズの婚約者と共に学んでいる。アメリアは彼女より幼く、また後から教育が始まったというのに随分優秀だと評判だ……レイナルドと違って。
「遅くなってしまい申し訳ありません」
アメリアは深々と頭を下げた。レイナルドとアメリアの茶会は、二人が初めて顔合わせをしたあの庭園で行っている。レイナルドがアメリアへ酷い態度を取ったことは王宮内で広く知られており、茶会の日は時間に遅れることが無いよう、レイナルドの教師が毎回早めに授業を切り上げているのだ。その為時間通りに授業を受け終えたアメリアはいつもレイナルドより後に到着することになる。
「……構わん」
眉間に皺を寄せて顔を背けると、目にいっぱい涙を溜めたアメリアを視線の端で捉えた。
「なっ……何だ……」
「うっ……申し訳ありません」
「ふん。……お前も無理にここに来ることは無い。俺の方から母上に誤魔化して……」
それは九歳のレイナルドの精一杯の思いやりの言葉だった……誰が聞いてもそうとは思えないものだが。
「い、いやです」
アメリアが必死で堪えていた涙がぽろりと溢れた。ぎょっとしたレイナルドをアメリアはじっと見つめている。
「私、殿下ともっとお話ししたいのです……もっと仲良くなりたいのです」
溢れる涙を厭わず、アメリアは真っすぐとレイナルドを見つめ宣言した。レイナルドは大きく息を吐いた。知らないのだ、この小さな婚約者は。レイナルドの悪評を。レイナルドと婚約しても何の得もないことを。
「ひゃっ」
急にレイナルドからハンカチを投げつけられ、アメリアは声を上げた。
「……それで拭いておけ」
驚きのあまり涙が止まったアメリアは、目をぱちくりとした後、心底嬉しそうに微笑む。大事そうにそのハンカチを畳み、丁寧に涙を拭う様子をレイナルドはぼんやりと眺めていた。
きっと近い将来、アメリアはレイナルドから離れていくだろう。それなのに、何故ハンカチを貸すなどという行動を取ってしまったのか。レイナルドはまた眉間に皺を寄せ小さく頭を振った。
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