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 すやすやと眠るフィリップは隣で何かが動く気配を感じ、少しずつ覚醒していった。ぱちりと目を開くと、隣でレナが目を見開き、驚愕の表情をしている。


「レナ?どうしたんだ?」


 十日ぶりに聞こえた自分の声にどこか不自然さを感じる前に、レナが叫び声を上げた。


「ででで殿下!!どうしてこちらに!!!」


「へ?」



「お嬢様!何が……この悪党王子!!お嬢様のベッドに潜り込むとは……!!」


 マーサは箒を振り回し、フィリップを叩きのめした。フィリップは、抵抗することなく甘んじて受けることにした。何せ自分は結婚前の婚約者のベッドに裸で潜り込んでいるのだから。

 マーサの乱心をレナが必死で止め、他の家族や使用人たちが駆け付けたことから、マーサの箒は漸く止まった。




◇◇◇◇


 フィリップは衣類を借り、公爵家の応接室で状況を説明した。自室で魔術師の声が聞こえ、気付いたらネズミに変えられていたこと、レナが匿ってくれ世話をしてくれたこと……聞いていたレナの両親や公爵家の使用人たちは、姿が変わっても変わらない愛の形だと感激していたがレナだけは呆然としていた。



「ネ、ネズミ……?リスではなく?」


「ああ。すまない、リスでは無かったんだ。」


「そんな……。」


「だから、レナ……。」


 フィリップはレナへ優しく微笑んだ。


「本物のリスを見に行こう。」


「へ?」


「すぐには難しいかもしれない。俺が姿が変えられていた間の執務が滞っている筈だから。だけど、急いで片付けるから一緒に動物園に行ってくれないだろうか?」


 初めてのデートのお誘いにレナはキョトンとしていたが、次の瞬間ネズミのフィリップへ自分が何を語っていたかを思い出し、顔を青くさせたり赤くさせたりした。



「今まですまなかった。許してもらえるとは思わないが、これから頑張るからどうか見ていてほしい。」


 フィリップの言葉に、レナはこくこくと頷いた。フィリップは甘い笑顔を零し、レナの手を取ると唇を寄せた。二人の触れ合いを止めようと箒を取り出したマーサを押さえるのに、公爵家の使用人たちは苦労した。



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