10 / 12
10
しおりを挟むレナの涙が落ち着くと、マーサが口を開いた。
「大体、連れ去られたとは限らないじゃないですか。」
「どういうこと?」
「あの性悪王子のことです。きっとカエルにでも変えられているんですよ!」
(さすが、ミーサの姉だな……鋭い。)
「まぁ、マーサったら。」
レナの声が少し明るくなり、マーサも、バスケットの中のフィリップもホッと胸を撫で下ろした。
「もし私が魔術師なら真っ先に殿下をカエルにしますよ。そして思いっきり踏みつけてやります!公爵家の使用人は皆そうしたい筈です。」
(ひぃ……!)
フィリップはガタガタと震えた。公爵家の使用人達にそれ程までに恨まれていたのだ。いや、恨まれて当然だった。フィリップは婚約者として最低の男だったとこの数日で突きつけられた。
「それに、これまで殿下と仲良くできなかったのはお嬢様のせいではありませんよ。お嬢様は殿下の目標の為にずっと努力されていただけじゃないですか。」
(俺の目標……?)
「ううん、私がいけなかったの。」
「もう!お嬢様は悪くありません!全部、あの下衆王子のせいです!」
(マーサ……俺の二つ名はいくつあるんだ……。)
その後のマーサの説得も空しく、レナの自責の念を減らすことは出来なかった。
◇◇◇◇
マーサが退室後、レナは「リスさん、ごめんね」と言いながらバスケットの蓋を開け、フィリップをベッドサイドのテーブルへ乗せた。フィリップはレナを心配そうに見つめると、それが伝わったのかレナは寂しそうに微笑みながらフィリップの頭を優しく撫でた。
「……フィリップ様は幼い頃からバーナード王太子の右腕になりたいと仰っていたの。私はずっとそのお手伝いがしたくて……。」
(レナ……。)
レナは勤勉で王子妃教育も執務も積極的に取り組んでいた。フィリップは彼女のそんな様子を見ても深く考えることはせず、レナは勉強好きだとしか捉えていなかった。だがそれらは全てフィリップの為だった。
「執務を頑張るうちに行き過ぎてしまって……フィリップ様に口煩く言って嫌われてしまったの。……上手くいかなくて。」
レナの目にみるみる涙が溜まった。
「……っ、私がっ、フィリップ様を襲うように魔術師に依頼したのだと、考えている人が多いみたいで……っ!」
涙を堪えながら、言葉を吐き出すレナは苦しそうでフィリップも胸が痛くなる。
「……私、そんなことしない。絶対にしないのに……。」
(レナ……。)
「……仲直りしたかった。昔みたいに仲良くしたかった……でも、もう」
(レナ、レナ!)
「ずっと、ずっとお慕いしていたのに……。」
ぽろぽろと零れ落ちる涙を見て、フィリップは猛省した。机の上にあったハンカチを必死で引っ張り、レナの元へ引きずっていく。
「まぁ……。リスさん、ありがとう。」
レナはフィリップの行動に驚いたようで目をぱちくりとさせたが、ハンカチを受け取ると嬉しそうに微笑んだ。
「お父様は、暫く領地で過ごしたほうが良いとお考えみたいなの。リスさんも一緒に行きましょうね。領地なら自然も多いからリスさんも過ごしやすい筈よ。」
その後もレナは、ネズミのフィリップへ領地がどんな場所か聞かせた。そして夜になるといつもはバスケットの中で眠っていたが、この日はレナが自身のベッドにネズミのスペースを作りフィリップは婚約者と初めて添い寝することとなった。
36
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。


悪役令嬢は楽しいな
kae
恋愛
気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。
でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。
ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。
「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」
悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。
[完結]想ってもいいでしょうか?
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
貴方に逢いたくて逢いたくて逢いたくて胸が張り裂けそう。
失ってしまった貴方は、どこへ行ってしまったのだろう。
暗闇の中、涙を流して、ただただ貴方の事を考え続ける。
後悔しているの。
何度も考えるの。
でもどうすればよかったのか、どうしても分からない。
桜が舞い散り、灼熱の太陽に耐え、紅葉が終わっても貴方は帰ってこない。
本当は分かっている。
もう二度と私の元へ貴方は帰ってこない事を。
雪の結晶がキラキラ輝きながら落ちてくる。
頬についた結晶はすぐに溶けて流れ落ちる。
私の涙と一緒に。
まだ、あと少し。
ううん、一生でも、私が朽ち果てるまで。
貴方の事を想ってもいいでしょうか?


【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる
花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる