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しおりを挟むマーサが退室するとレナはフィリップを出し、ベッドサイドの机に降ろしてくれた。レナはベッドの淵に腰掛け、フィリップへ悲しそうな笑顔を見せた。
「リスさん。狭いところに入れてごめんね。」
レナはフィリップの頭を指でくすぐった後、遠い目をして話し始めた。
「婚約者のフィリップ殿下が急にいなくなってしまったの……皆さん、他の女性の所にいってしまったと話されているわ。私との関係が不仲なのは皆さんご存じだから。」
(な……っ!そんな話になっているのか!)
それならマーサのあの怒りっぷりも納得だ。フィリップが自分の主を筵にしているだけでなく、他の女に現を抜かしていると思っているのだから。
「……仰って下されば良かったのに。」
(……?)
「……愛する方がいるなら仰って下されば良かったのに。そしたら、私、私……。」
氷の令嬢と呼ばれる婚約者がぼたぼたと大粒の涙を流したのを目にして、フィリップは思わずレナの膝に飛び乗った。ネズミのフィリップには何も出来ないが、何かせずにはいられなかったのだ。
「……っ、仰ってくれたら私、みっともなく縋ったりなんてしなかった!ちゃんと身を引いて、それで、フィリップ様が愛する人と過ごせるように、って、それで、それで……。」
(レナ、違う……。違うんだ……。)
フィリップの声はレナには届かない。今フィリップに出来ることは「フィリップ、さま……。」と涙を流し続けるレナの膝の上でびしょ濡れになることだけだった。
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