【完結】ネズミの王子様の声は、氷の令嬢には届かない。

たまこ

文字の大きさ
上 下
3 / 12

しおりを挟む

 魔術師の声が消えた後。コンコンと扉がノックされた。

「フィリップ殿下。物音がしたようですが如何いたしましたか?」


(この声はミーサだ!上手くいけば助けを求められるぞ!)


「殿下?入りますよ?」

 ミーサはフィリップが物心つく前から身の回りの世話をしてくれている侍女だ。フィリップが心を許している一人だと言っていい。フィリップは、意を決してミーサの前に現れた。しかし。



「ひぃっ!汚らしいネズミ!殿下の部屋に入るとは!このミーサが許しません!!」

 そう言うとミーサはどこに隠し持っていたのか箒を振り回し、フィリップはあわや潰れるところだった。ミーサとフィリップの追いかけっこは長時間続き、フィリップは命からがら逃げだした。



◇◇◇◇



(ここまで話が伝わらないとは……。)

 ミーサの箒に叩かれそうになった後も、フィリップは身近な人間へ接触を試みた。ミーサの時の反省を生かし、フィリップは紙に状況を書き、それを相手に渡そうとした。しかし、小さな身体で必死に書いたそれは、側近のローレンスにも、兄の王太子バーナードにも渡す前に叫ばれ、退治されそうになってしまった。王城から叩き出されたネズミ、フィリップは体力も底をつきフラフラと当てもなくうろついていた。


 雨も降り始め、身体が水びだしになると容赦なく体温を奪っていく。もう無理かもしれない、そう諦めそうになった時、見慣れた顔が視界を埋め尽くした。



(レナ……?なぜこんな所に?)

 殆ど残っていない体力を振り絞り、周りを見渡すとレナの自宅である公爵家の屋敷のそばまで来ていたことに気付く。


(どうせ、レナも叫ぶんだろう……。)

 潔癖なレナのことだ。薄汚いネズミなんて一番嫌いな物だろう。そう確信していた。それに、この呪いを依頼したのはレナでは無いかとフィリップは疑っている。しかし、次の瞬間フィリップは温かいものに包まれていた。



(な……。)

 レナは汚れることを厭わず、自身のストールをフィリップに巻き付けた。



「貴方……もしかして……。」



(レナ、まさか俺の正体に気付いてくれたのか?!)



「貴方、もしかして、リスさんね?」



(はぁ?!)

 突拍子もない言葉にフィリップは目を丸くしたが、十年以上ぶりに見た婚約者の笑顔に余計に目を丸くさせるしかなかった。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

悪役令嬢は楽しいな

kae
恋愛
 気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。  でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。  ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。 「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」  悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。

[完結]想ってもいいでしょうか?

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
貴方に逢いたくて逢いたくて逢いたくて胸が張り裂けそう。 失ってしまった貴方は、どこへ行ってしまったのだろう。 暗闇の中、涙を流して、ただただ貴方の事を考え続ける。 後悔しているの。 何度も考えるの。 でもどうすればよかったのか、どうしても分からない。 桜が舞い散り、灼熱の太陽に耐え、紅葉が終わっても貴方は帰ってこない。 本当は分かっている。 もう二度と私の元へ貴方は帰ってこない事を。 雪の結晶がキラキラ輝きながら落ちてくる。 頬についた結晶はすぐに溶けて流れ落ちる。 私の涙と一緒に。 まだ、あと少し。 ううん、一生でも、私が朽ち果てるまで。 貴方の事を想ってもいいでしょうか?

気になるなら、花束を添えて

夏八木アオ
恋愛
手紙でやりとりしていた婚約者がちょっと想像と違ったなぁ、というご令嬢と、無口な年上婚約者のほのぼのハピエンです。

【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中

【完結】婚約破棄!! 

❄️冬は つとめて
恋愛
国王主催の卒業生の祝賀会で、この国の王太子が婚約破棄の暴挙に出た。会場内で繰り広げられる婚約破棄の場に、王と王妃が現れようとしていた。

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

処理中です...