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しおりを挟む王城のとある一室。女性の冷たい声が響く。
「フィリップ殿下。視察に行かれる前にこちらの書類の決裁をお願い致します。」
「……それは、視察の後でやる。」
「いつもそう仰って結局手を付けないではありませんか。今すぐこちらに取り掛かって下さい。」
「……っ!」
フィリップは一言言い返してやろうと口を開くが、凍るように冷たい視線を浴び言葉を失った。フィリップが乱暴に書類を受け取ると彼女は「失礼致しました。」と退室した。彼女の執務室に戻ったのだろう。
「何なんだ、あの目は!」
「執務をサボる殿下が悪いと思いますけど?」
呆れたように諫めるのはフィリップの側近ローレンスだ。
「第二王子ですよね、一応?執務をこなすのは生まれた時からの義務なのでは?」
「……事務作業は好かん。」
「まぁ、確かに殿下は外交や視察の方が得意ですけどね。殿下がそちらばかりに力を入れるからレナ様の負担が大きくなるんですよ。」
「……だが!婚約者をあんな目で見る令嬢がどこにいる!いつも冷たく事務的な態度ばかりでうんざりだ!」
「殿下が無下にしているからでしょう。……幼い頃からの仲なんだから優しくしたらいいのに。」
フィリップは眉間に皺を寄せた。ローレンスはいつもレナの味方ばかりしている。自分の行動が悪いのは百も承知だが面白くない。レナはいつも「早くしてください。」「こちらが間違っています。」と冷たく睨むようにフィリップを見つめるだけだ。その様子を見ている王宮職員たちからは『氷の令嬢』と陰で呼ばれているほどだ。誰があんな氷の令嬢に優しくするか!とフィリップは心で毒づきながら、苦手な書類仕事に嫌々手を付けた。
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