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それからのこと。
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しおりを挟む「シャーロット•••。」
憂いを帯びた表情すら、シャーロットは愛しく感じる。ぐいっと、ハリーの胸の中に閉じ込められる。
「シャーロットは、俺のことを十五年前から好きだったと言ってくれた。だが•••エドモンド第二王子のことは本当に何にも思っていないのか?」
「ハリー、さま。」
至近距離で見つめるハリーの瞳には悲しみが映し出されていた。シャーロットが、ハリーとキャシーの仲を心配し、苦しんだのと同じように、ハリーも苦しんでいたのだ。
「エドモンド第二王子は、ずっと前からステファニー様のことを愛しておられたのです。そして、ステファニー様も長い間、エドモンド第二王子のことを想っておられました。」
「•••第二王子は、王子妃候補がいるのにも関わらず、他の女性を愛していたというのか。」
「ハリー様。お二人は私達を蔑ろにすることも、想いを伝え合うこともありませんでした。お二人の想いに気が付いたのは、恐らく私だけだと思います。」
「なぜ•••?」
「お二人がお互いを見るときの瞳は、私がハリー様を見るそれと同じものだったからです。」
先程の悲しみを映したハリーの瞳は、喜びでいっぱいになり、また額に口づけを落とされる。
「ハリー様!」
「シャーロットが悪い。可愛いこと言うから。」
嗜めるように名前を呼ぶと、甘い言葉を囁かれ、また額に口づけされてしまう。
「ステファニー第二王子妃のお茶会に行きたくなさそうだったのは?」
「エドモンド第二王子もステファニー様も、私に申し訳ないと思っているようでした。自分達だけ、想っている相手と結ばれてしまうと。私がハリー様をずっとお慕いしていると伝えられたら、お二人は安心できると分かっていました。だけど伝えられなかった。」
「どうして?」
「ハリー様と婚約する前に、もし私の想いを伝えたら、エドモンド第二王子は、ハリー様へ無理矢理私との婚約を迫ることが分かっていたからです。無理矢理結ばれるのは悲しくて。」
「婚約した後は?」
「私は、この婚約が何かしら条件の付けられたものだと思い込んでいました。お父様がハリー様に無理をさせている、と。だから、その、いつかハリー様が私と婚約破棄したい時に、ステファニー様たちに私の想いを知らせるのは良くないことだと思いました。」
ハリーの瞳は獣のような獰猛なものになり、抱き寄せていたシャーロットを抱き上げ、あっという間に膝の上に乗せてしまった。
「ハ、ハリーさま•••。」
「婚約破棄なんて、酷いことを言うからだ。」
「もう、そんなこと思いません。ハリー様の気持ち、十分伝わりましたから。」
シャーロットは、ハリーの胸元に顔を埋めて呟いた。ハリーは、シャーロットの美しい髪をいつまでも撫でていた。
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