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ハリーside

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 時が巡り、七年後。

 シャーロットが変わりなく、訓練所へ足を運んでいることに俺は気になりながらも、声もかけずにそのまま七年が経っていた。王子妃教育の評判は良く、三名いる王子妃候補の中で、おそらくシャーロットが王子妃確定だろうと言われていた。そんな中で訓練所へ毎日欠かさず来ていることが心配だった。


(何か思い悩むようなことがあるのだろうか)


 城内の警備中、ふとシャーロットの様子を思い返していると、一緒に警備していたキャシーが「あ、ここ!」と声を上げた。キャシーが指差す方を見ると、中庭の一角に花壇が増やされていることに気付いた。


「どうした?」


「ここ、王子妃候補の方々へ一区間ずつ分け与えられたそうよ。好きな花を選んで、少しでも王子妃教育の慰めになればって国王陛下が。庭師の人たちが新しい仕事だって楽しそうにしていたの。」


 確かによく見ると、三つに分けられている。若い女性が好む、色とりどりの花たちは確かに王子妃候補たちを元気付けるだろうと感心した。しかし、最後の区画を見た時、俺は言い様のない気持ちで胸が苦しくなった。


「あら、趣味が渋い方もいるのね。スズランだけって、よっぽど好きなのね。」


 キャシーの呟きも遠くなるほどに、あの妹のようだった、努力家の王子妃候補へ思いを馳せた。


◇◇◇


 そのすぐ後のことだった。父親から、第二王子と隣国の王女が婚約するかもしれない、と聞いた。そして、その話が確定ではないことから、シャーロット嬢だけは王子妃候補として残ることになったことも。

「では、シャーロット嬢はどうなるんですか・・・。」

 これまで努力してきた彼女へのとんでもない仕打ちに俺は拳を握りしめ、怒りを抑えきれなかった。

「もし、王女との婚約が確定したら、シャーロット嬢は行き遅れだな。」

「そんな・・・!」

「酷い話だ。だが、彼女も分かっていて受け入れたようだ。自分の役割だと。」

「それは!断るに断れなかったのではないですか!」

「俺に怒るなよ・・・そうだ、もしシャーロット嬢が行き遅れたらお前が結婚したらどうだ?昔は何故だかお前に懐いていたしな。公爵には俺がお願いしてもいいよ~」

 騎士団長とは思えない、軽薄な父は、へらへらと冗談交じりにそう言った。勿論、権威と言うものに全く興味がないからこそ言える冗談なのだが。


「でしたら、父上、お願いします。」

「はぁ?!」

 女っ気の無い三十三歳の息子が、まさか王子妃候補を貰い受けたいと言うなんて誰が思うだろう。しかし、ハリーは、真剣で迷い無い瞳で語り続ける。


「もし、第二王子と王女の婚約が確定したら、私が、シャーロット嬢と結婚します。」
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