【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ

文字の大きさ
上 下
19 / 41
シャーロットside

19

しおりを挟む

 騎士は悲しみと苦痛が入り交じった表情を見せ、ゆっくりと項垂れる。

「あのー、石を譲るのは無理なんだけどさ……騎士さんとオレで協力プレイするってのはどう?」

 あんまりにも打ちひしがれた様子が気の毒になって、オレはとっさに思いつきの提案を口に出してしまった。

「……協力だと?」

 騎士は凜々しい眉の間に深い皺を寄せて顔を上げる。オレは顎に手をやって考えながら話し出した。

「そう。オレの願いは、絶対アンタには譲れないけど、すごく個人的な小さいお願い事なんだ。アンタの願い事も、恋人を自由にしてやりたいってだけだろ? どちらも大それた願い事じゃない。オレの持ってる命願石は特別製みたいだから、小さなお願いなら、二つを同時に叶える方法があるかも知れないじゃん?」
「まさか! 二つの望みを同時に叶えるなど、聞いたことが無い」

 騎士は馬鹿にしたように吐き捨てたけど、オレは割と真剣だった。

「石を譲れって言うけどさ、アンタはこの石に触れないだろ。触ろうとしたら、さっきみたいに電撃で追い払われる。どうやって持ち運ぶんだよ? オレを殺したら奪うことはできるかも知れないけど、オレの死と同時に石が効力を失う可能性もあるよ。アンタが望みを叶えるには、オレに協力するしかなくない?」

 オレの指摘に、騎士は思いきり舌打ちしてそっぽを向いた。オレは気にせず続ける。

「オレはオレで、この世界のことをほとんど知らない。一人で冒険に出ても、他の巡礼者を出し抜けるとはとても思えない。滅石を一番多く集めないと願いが叶わないんだから、協力するのが一番望みに近いんじゃないかと思うんだけど……」

 そこまでオレの考えを話すと、騎士は考え込むように顎に手を当て、

「……お前の叶えたい望みとは、なんだ」

 と聞いてきた。

「うっ……!」

 オレは思わず言葉に詰まる。
 そりゃ聞かれるよな。目的が何か分からない人間とは協力したくないもんな。
 でも、このシリアスな雰囲気の中、ちんちんつけて欲しいだけですとはとても言い出せない。

「それは……言えない。とても個人的なことだから」

 騎士は忌々しげに舌打ちし、

「お前の望みが分からないなら、協力することなど出来ないだろうが!」

 と怒鳴った。

「それはそうなんだけど……! でもオレはそっちの望みを知ってるから、両方叶える方法はオレが考えれば良いじゃん! オレだってフィオレラには幸せになって欲しいし!」

 オレも後に退けなくて騎士と額を付き合わせる勢いで怒鳴り返す。

「お前のような下郎に、大聖女の名を呼ぶ資格はない!」
「怒るとこソコかよ!? いや、オレはアンタとフィオレラ様の恋路を邪魔する気は無いから。冷静に考えよう」

 オレはエロゲ愛好家だが性癖はいたってノーマルなので、NTR(寝取られ)やBSS(僕が先に好きだったのに)には興味ない。正ヒロインは主人公とくっついてくれて良い。むしろフィオレラはゲームで攻略済みなので、残ったフリーの女の子に会って攻略したい気持ちが強い。というか、攻略する前に願いを叶えてちんちんを取り戻さねばならないのだ!

 騎士はオレから少し距離を取って立ち上がり、顎に手を当てて考え込んだ。オレも立ち上がって握りしめていた石をポケットにしまい直し、ずっと黙ったまま横にいたカレルの存在をようやく思い出した。

「……カレルはどうする……?」

 なんとなく後ろめたい気持ちでひげもじゃの顔を見上げると、カレルは

「どうもしない。アキオがそこの騎士と旅に出るなら、オレは自分の仕事に戻るだけだ」

 と首を振る。それにオレが言葉を返す前に、騎士が割り込んできた。

「それは認められんな。お前にはスパイ容疑がかかっている。ここを出れば、私の手の者がお前を捕らえて再び投獄する手はずになっている。逃げられると思うなよ」
「は、タダの人間風情が偉そうに」

 剣呑な二人の目線がぶつかり合い、見えない火花が散るようだ。オレはその間に立って、二人を交互に睨み、大声で言った。

「やーめーろーよー! どうせならカレルにも協力してもらった方がいいよ! せっかく知り合ったんだから、仲良くしよう!」
「協力!? この混ざり者とか? はっ、とんでもない話だ」
「オレはファタリタの人間と手を結ぶ気は無い」

「もおお~! カレルの仕事は命願教の秘密を探ることだよな? そんで、騎士さんは命願教の教義に反して大聖女を役目から解放したいんだろ? どっちも鍵になるのは命願教の秘密だ。だったら協力した方が効率が良いと思わないか!?」
 
 オレは二人に指を突きつける。カレルはしばらく騎士の方を睨んでいたが、ふと表情を緩めて

「分かった。オレはアキオに協力する。アキオはファタリタの人間だが、命願教の毒におかされていないようだから」

 とオレにだけ頷いて見せた。
 騎士はしばらく苦虫を噛みつぶしたような顔で地面を睨んでいたが、

「……ちっ、分かった。そちらに有利すぎる気がするが、私には他に手がない。お前の言うとおりにしよう」

 と、呟いた。

「よーし、じゃ、これから協力して頑張っていこーぜ!」

 ようやくなんとか話がまとまった。オレは二人に向かって手を差し出したが、握ってくれたのはカレルだけだった。

 初期パーティーはひげもじゃの熊男と、元主役のイケメン騎士、レベル1モブのオレ。本来なら美少女と度に出るはずなのに、何故か男ばかりで残念だけど、ようやくこれからオレの異世界での冒険が始まるんだ!
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

他人の婚約者を誘惑せずにはいられない令嬢に目をつけられましたが、私の婚約者を馬鹿にし過ぎだと思います

珠宮さくら
恋愛
ニヴェス・カスティリオーネは婚約者ができたのだが、あまり嬉しくない状況で婚約することになった。 最初は、ニヴェスの妹との婚約者にどうかと言う話だったのだ。その子息が、ニヴェスより年下で妹との方が歳が近いからだった。 それなのに妹はある理由で婚約したくないと言っていて、それをフォローしたニヴェスが、その子息に気に入られて婚約することになったのだが……。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

処理中です...