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シャーロットside
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しおりを挟む「可笑しい、やっぱり可笑しいわ。」
今度開かれる王家主催の舞踏会用にと、ハリー様から贈られたクリーム色のドレスを見て私はソフィアに詰め寄った。
「何が可笑しいのか、私にはさっぱり分かりませんよ。このドレス、最上級品ではありませんか。王都で一番のデザイナーズショップで作られたものですよ。」
「だからよ。何故ハリー様はここまでされるの・・・お父様は一体どんな恐ろしい条件をハリー様達に突き付けたのかしら。」
「お嬢様、お言葉ですが、いくら旦那様と言えど、旧知の間柄であるラッセル伯爵とそのご子息には流石にそんな恐ろしいことはなさらないかと思います。」
ソフィアは私にだけでなくお父様にも辛辣だ、これはソフィアの夫ハロルドの影響もあるのでは、と心の中で呟いた。
「では、どうしてこんな素晴らしいものを私に贈るのかしら。」
「・・・お嬢様、大事な婚約者には素敵なドレスを贈りたいと思うものです。ハリー様は、お嬢様を大事になさっているんですよ。」
ソフィアは子どもに言い含めるようにゆっくりとそう言った。
「だけど、ハリー様にお父様から何か条件を付けられたのではないかと聞いた時、様子が可笑しかったわ。」
「お嬢様、そんなことを婚約者に言われたら、誰だって様子が可笑しくなりますよ!私も後からお嬢様に聞いて肝が冷えましたよ。ハリー様だって、きっと驚かれただけです。」
「そうかしら。」
「何故こんなにも頑ななのですか。ハリー様はいつもお嬢様を大切になさっているではありませんか。」
ソフィアは納得できない様子で溜め息をついた。あの顔合わせの日から、何度かハリー様とはお会いしている。伯爵家での顔合わせでは、ラッセル伯爵ご夫妻は私を大歓迎してくれた。あれは嘘ではないように見えた。それから伯爵家でスズランの花を見たり、また別の日は観劇に行ったり、植物園へ行ったり、綺麗な湖がある公園でピクニックをしたり・・・その度にハリー様は、丁寧にエスコートして下さった。そして、言葉数は少なく、表情は豊かではないながらも、私を大切にしようとしてくれているのを感じた。
「確かにソフィアの言う通り、ハリー様は私の事を大切にしてくださっているわ。」
「では、どうしてですか。」
もし、これが何らかの裏の理由があり、ハリー様が渋々婚約していたとして、ここまで外出したり、丁寧な対応はしないだろう。最低限の付き合いで良い、と考えるはずだ。こんな上質なドレスも贈らないだろう。だが、ハリー様は私を大事な婚約者のように扱う。でも自分が、ソフィアの言うような大事な婚約者だとはどうしても思えない理由があった。
「もし、大事な婚約者だったら、あ、ああ愛の言葉を囁いたり、ス、スススキンシップもあるのではないかしら!」
「お嬢様、恥ずかしいのであれば口に出さなくても宜しいかと。」
ソフィアは心底呆れたようで、じっとりとした瞳で私を見てそう言った。
「私にとっては重要な問題なのよ」
「そうですね・・・失礼ながら、ハリー様はあまり女性慣れしていないようにお見受けします。だからこそ、39歳になっても婚約者がいなかったのではないでしょうか。まぁ、23歳でスキンシップすらスムーズに口に出来ないお嬢様に合わせてくださっているのかもしれませんが。それに、ハリー様は言葉を重ねることもあまりお得意ではない様子です。少しずつ段階を踏んでいこうと考えていらっしゃるかもしれません。それほど悩まれなくてもいいのではないかと。」
ソフィアの分析は、毒舌ながらも至極真っ当な意見だと感じた。だが、私の心にはまだ凝りが残っている。ハリー様と過ごす日々が予想と違い、あまりにも幸せすぎるのがいけない。ハリー様の大事な婚約者になれたのではないかという期待と、何か裏がありいつかこの幸せな日々が崩れてしまうのではないかと言う不安が常に心の中で渦巻いてしまうのだから。
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