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シャーロットside
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「ソフィアの昔話?」
「・・・私の、というか私とハロルドの話です。」
ソフィアの頬に一瞬赤みが刺した。いつも冷静で表情を崩さない彼女が見せた初めての顔だった。ハロルドは、お父様の執事をしている。ソフィアとハロルドは同い年で31歳。確か二人が24歳の頃に結婚した。二人とも使用人とはいえ、それぞれ子爵家の出身だ。貴族が結婚するには少し遅い時期だと感じたのを覚えている。
「勿論、聞かせてほしいわ。」
「ありがとうございます。お嬢様が王子妃候補になられた10歳の頃、私は公爵家に参りました。学校を卒業して18歳の時でした。それと同時期に、ハロルドも旦那様の従者となる為、こちらに参りました。」
「ええ、覚えているわ。」
「こちらに来てしばらく経った頃です。その、言いづらいことなのですが・・・ハロルドに、その、口説かれ始めました。」
こんなに歯切れの悪いソフィアも、少し照れた顔をするソフィアも初めて見て、大変驚いたのだが、私はそれ以上に驚いたことを追求する。
「あのハロルドが口説くですって!全く想像できないわ!」
「ええ、私もお嬢様と同じお気持ちでした。ハロルドの気まぐれだろう、少ししたら飽きるだろう、と思っていたのです。しかし、ハロルドは五年間毎日のように私を口説いてきたのです。」
「ご、五年・・・あのハロルドが・・・。」
ハロルドは大変美丈夫で、数えきれないほどの公爵家のメイドたちを虜にしてきた。無口で、冷たい眼差し、例えお父様に対してでも切り捨てるような言葉を平気で言う、決して感情を見せず常に無表情、そのような男性にソフィアを任せて良いものか、とソフィアの婚約を聞いた、当時15歳の私は、何故結婚するのか尋ねた。
確かソフィアは「頼まれたので・・・」と答え、当時の私は家同士の話し合いの結果、政略結婚することになったのだと捉えたのだが。
「あの時、結婚の理由は頼まれたからって、話していたけど、もしかして・・・。」
「はい、文字通りハロルドに頼まれたのです。愛しているから結婚してほしい、と。五年間毎日のように。」
「ひっ・・・!」
恋愛というものに疎い私には刺激的すぎる言葉に、思わず小さな悲鳴を上げてしまう。情熱的、というより犯罪的ではないだろうか。
「私も最初のうちは、お嬢様のように悲鳴を上げておりました。当時、今もですが、お嬢様にお仕えすることだけに専念しておりましたし、結婚する気はなかったものですから。」
「だけど、ハロルドは美丈夫だわ。他の女性ならクラッとは来そうだけど、ソフィアはタイプではなかったの?」
「いいえ、全くタイプではございません。あのように女性に騒がれるタイプは苦手でした。私のような地味な人間を揶揄しているのだろう、と長いこと思っておりました。」
「では、何故結婚を?」
ソフィアが自分のことをこんなに話すのは初めてだ。ついつい前のめりになって聞いてしまう。ソフィアは苦笑して、話し続けた。
「あまりに毎日熱心に頼まれるものですから、絆された、というのでしょうか。いつもは断っていたのですが、あの日はとうとう諦めて、好きにして下さい、と答えたんです。プロポーズの返事としては、最低の言葉です。ですが、ハロルドは大喜びしてこう言ったんです。〈ありがとう。君が俺のことを想っていないのは分かっている。だが、君が長い生涯を終えたとき、結婚して良かったと思えるようずっと口説き続けるよ〉、と。」
「ひゃぁぁ・・・」
自分に言われた訳でもないのに、私は顔を熱くし声を上げた。よくよく考えたら、王子妃教育と公爵家の仕事ばかりしていて恋の話をするようなお友達がほとんどいない。免疫が無さすぎるのだ。
「私がハロルドを想うようになるまで、それほど時間はかからなかったのです。それから一年の婚約期間を経て、結婚しましたが、婚約中にはハロルドと同じような想いを持つようになりました。・・・お嬢様、婚約前に男女が同じように熱を持っていないことは珍しくありません。相手を想う気持ちに差があることは、よくあることです。婚約中や結婚してから、愛を育んでいくことも素敵なことだとは思いませんか。」
優しく笑うソフィアを見て、ハロルドはきっとソフィアの厳しくも深い優しさを持った所に惹かれたのだと確信した。
「・・・私の、というか私とハロルドの話です。」
ソフィアの頬に一瞬赤みが刺した。いつも冷静で表情を崩さない彼女が見せた初めての顔だった。ハロルドは、お父様の執事をしている。ソフィアとハロルドは同い年で31歳。確か二人が24歳の頃に結婚した。二人とも使用人とはいえ、それぞれ子爵家の出身だ。貴族が結婚するには少し遅い時期だと感じたのを覚えている。
「勿論、聞かせてほしいわ。」
「ありがとうございます。お嬢様が王子妃候補になられた10歳の頃、私は公爵家に参りました。学校を卒業して18歳の時でした。それと同時期に、ハロルドも旦那様の従者となる為、こちらに参りました。」
「ええ、覚えているわ。」
「こちらに来てしばらく経った頃です。その、言いづらいことなのですが・・・ハロルドに、その、口説かれ始めました。」
こんなに歯切れの悪いソフィアも、少し照れた顔をするソフィアも初めて見て、大変驚いたのだが、私はそれ以上に驚いたことを追求する。
「あのハロルドが口説くですって!全く想像できないわ!」
「ええ、私もお嬢様と同じお気持ちでした。ハロルドの気まぐれだろう、少ししたら飽きるだろう、と思っていたのです。しかし、ハロルドは五年間毎日のように私を口説いてきたのです。」
「ご、五年・・・あのハロルドが・・・。」
ハロルドは大変美丈夫で、数えきれないほどの公爵家のメイドたちを虜にしてきた。無口で、冷たい眼差し、例えお父様に対してでも切り捨てるような言葉を平気で言う、決して感情を見せず常に無表情、そのような男性にソフィアを任せて良いものか、とソフィアの婚約を聞いた、当時15歳の私は、何故結婚するのか尋ねた。
確かソフィアは「頼まれたので・・・」と答え、当時の私は家同士の話し合いの結果、政略結婚することになったのだと捉えたのだが。
「あの時、結婚の理由は頼まれたからって、話していたけど、もしかして・・・。」
「はい、文字通りハロルドに頼まれたのです。愛しているから結婚してほしい、と。五年間毎日のように。」
「ひっ・・・!」
恋愛というものに疎い私には刺激的すぎる言葉に、思わず小さな悲鳴を上げてしまう。情熱的、というより犯罪的ではないだろうか。
「私も最初のうちは、お嬢様のように悲鳴を上げておりました。当時、今もですが、お嬢様にお仕えすることだけに専念しておりましたし、結婚する気はなかったものですから。」
「だけど、ハロルドは美丈夫だわ。他の女性ならクラッとは来そうだけど、ソフィアはタイプではなかったの?」
「いいえ、全くタイプではございません。あのように女性に騒がれるタイプは苦手でした。私のような地味な人間を揶揄しているのだろう、と長いこと思っておりました。」
「では、何故結婚を?」
ソフィアが自分のことをこんなに話すのは初めてだ。ついつい前のめりになって聞いてしまう。ソフィアは苦笑して、話し続けた。
「あまりに毎日熱心に頼まれるものですから、絆された、というのでしょうか。いつもは断っていたのですが、あの日はとうとう諦めて、好きにして下さい、と答えたんです。プロポーズの返事としては、最低の言葉です。ですが、ハロルドは大喜びしてこう言ったんです。〈ありがとう。君が俺のことを想っていないのは分かっている。だが、君が長い生涯を終えたとき、結婚して良かったと思えるようずっと口説き続けるよ〉、と。」
「ひゃぁぁ・・・」
自分に言われた訳でもないのに、私は顔を熱くし声を上げた。よくよく考えたら、王子妃教育と公爵家の仕事ばかりしていて恋の話をするようなお友達がほとんどいない。免疫が無さすぎるのだ。
「私がハロルドを想うようになるまで、それほど時間はかからなかったのです。それから一年の婚約期間を経て、結婚しましたが、婚約中にはハロルドと同じような想いを持つようになりました。・・・お嬢様、婚約前に男女が同じように熱を持っていないことは珍しくありません。相手を想う気持ちに差があることは、よくあることです。婚約中や結婚してから、愛を育んでいくことも素敵なことだとは思いませんか。」
優しく笑うソフィアを見て、ハロルドはきっとソフィアの厳しくも深い優しさを持った所に惹かれたのだと確信した。
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