5 / 41
シャーロットside
5
しおりを挟む私はそれからも、慰問活動に力を入れ、公爵領の隅々を回っていた。あの方への思いを振りほどきたくて、だけど忘れたくなくて、必死で働いてばかりの毎日。「やっと王子妃教育が終わったと言うのに、全然家にいないじゃない」と寂しそうに不満を口にするお母様を宥めるのが日課となった。あっという間に月日が過ぎ、王子妃候補をクビになって三年が経ったある日のこと。
「シャーロット、婚約が決まった」
朝からお父様に呼ばれて執務室に行くと、全く予想もしなかったことを言われる。我が国トップレベルの淑女教育を施されているにも関わらず、私は思わず眉間に皺を寄せた。
「お父様、何かの間違いではないでしょうか」
王子妃候補をクビになり三年、まともな縁談は一件も来なかった。それもそのはず、私と爵位と年齢が合う御令息のほとんどが既に婚約者がいた。稀に婚約者がいないケースもあったが、十年の間、王子妃候補の教育を受けてきていて、しかも公爵令嬢、というのは、侍女のソフィア曰く「とても扱いづらい」ということで、私の婚約相手になることはなかった。もちろん、まともではない縁談はたくさん来ていたが、それはお父様によって弾かれていた。つまり、お父様が婚約が決まった、と仰ると言うことはまともな縁談である、ということだ。
「シャーロット、何かの間違いではない」
お父様は、少し悩むような表情を見せながら、話し始めた。
「無論、シャーロットが嫌なら断ろう。ああ、その方が良い。今からでも断ってこようか。あんなやつに私の大事なシャーロットは任せられないだろう。大体、私の可愛いシャーロットを王家が十年も独り占めしていたんだ。やっと、家族水入らずで過ごせると思ったのに、もう婚約なんて早すぎる。シャーロット、やっぱり婚約は無しだ。」
国務大臣をされており、公爵家当主のお父様は、いつもはとても冷静で優秀な方だ。しかし、家族愛が強く、家族に関することになると暴走しやすい。
「お父様、落ち着いてください。お父様がそう思ってくださるのは嬉しいですが、婚約が決まった、と仰ったと言うことは相手のお家との話し合いもされているのでしょう。簡単に断ることはできないはずです。後、婚約する時期として全く早くはありません、遅すぎると言って良い年齢になっています。」
「遅すぎるなんてことはない!こんな可愛いシャーロットが、誰かと婚約するなんて耐えられないよ。」
お父様には、貴族社会で行き遅れになっている娘でも、幼い少女のように見えるらしい。
「お父様、まずお相手と、提示された内容を教えてください。受けるか受けないかは、そこからですわ。隣国の貴族の方でしょうか。」
ステファニー王女、今はステファニー第二王子妃の祖国である隣国は、我が国より女性の社会進出に積極的に取り組んでおり、女性が勉学に励むことも推奨されていると聞く。こちらでは扱いづらい、私のことも受け入れられやすいかもしれない。
「シャーロット!国外なんて絶対に行かせないよ。私たちと滅多に会えなくなるじゃないか!」
「・・・それでは、どなたでしょうか。」
お父様は大きく溜め息をつき、嫌そうな表情も隠しもしなかった。
「ハリー=ラッセル騎士団長だ。覚えているだろうか。」
私は、ずっと、誰にも明かさなかった思いを、この時隠せていただろうか。
81
お気に入りに追加
399
あなたにおすすめの小説

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【忘れるな、憎い君と結婚するのは亡き妻の遺言だということを】
男爵家令嬢、ジェニファーは薄幸な少女だった。両親を早くに亡くし、意地悪な叔母と叔父に育てられた彼女には忘れられない初恋があった。それは少女時代、病弱な従姉妹の話し相手として滞在した避暑地で偶然出会った少年。年が近かった2人は頻繁に会っては楽しい日々を過ごしているうちに、ジェニファーは少年に好意を抱くようになっていった。
少年に恋したジェニファーは今の生活が長く続くことを祈った。
けれど従姉妹の体調が悪化し、遠くの病院に入院することになり、ジェニファーの役目は終わった。
少年に別れを告げる事もできずに、元の生活に戻ることになってしまったのだ。
それから十数年の時が流れ、音信不通になっていた従姉妹が自分の初恋の男性と結婚したことを知る。その事実にショックを受けたものの、ジェニファーは2人の結婚を心から祝うことにした。
その2年後、従姉妹は病で亡くなってしまう。それから1年の歳月が流れ、突然彼から求婚状が届けられた。ずっと彼のことが忘れられなかったジェニファーは、喜んで後妻に入ることにしたのだが……。
そこには残酷な現実が待っていた――
*他サイトでも投稿中

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる