2 / 12
2
しおりを挟む翌日、いつも通り朝早く出発するアランをエミリーは見送った。二人とも職場は王城内だが、出勤時間が違うので別々に出勤することが殆どだ。
「行ってらっしゃい。気を付けてね。」
「ああ。行ってくる。今日から引き継ぎ業務を始めるから遅くなる。」
「分かったわ、無理しないでね。」
アランは少しぎこちなく、優しく口づけてくれる。エミリーが、結婚時にお願いした『行ってらっしゃいのキス』をアランは律儀に守ってくれている。そんなアランがエミリーは大好きだった。玄関の外まで出て、見えなくなるまで見送っていると、アランは時折振り向いて、手を上げてくれる。
「よーし!私も仕事行くぞ~。」
大好きな夫の見送りで心を充電したエミリーは、家事と身支度を終えると、職場の託児所へ向かった。
◇◇◇
「そう、旦那様が異動するのね。貴女がいなくなるのは悲しいけど仕方ないわね。」
エミリーは出勤すると、所長のポーラへ時間を作って貰い、退職を願い出た。
「ご迷惑をお掛けしてすみません。」
「ううん。ただ、貴女がいなくなると寂しがる子どもたちがたくさんいるってこと。」
ポーラはにっこり笑い、エミリーの背中を叩いた。
「旦那様の栄転なんておめでたいことだわ。送別会は豪勢にさせてね。」
「ありがとうございます!」
ポーラの言葉に、エミリーは胸が暖かくなった。
「三ヶ月後には行くのね。退職時期はどうする?」
「それが、夫が引き継ぎ業務が忙しそうで・・・私がメインで引っ越し作業をすることになると思うので出来れば二ヶ月後には退職したいです。」
「旦那様、騎士団の副団長さんだったものね。勿論大丈夫よ。」
「お願いします。」
エミリーは、その後もポーラと退職に関する調整をしていると、痺れを切らした子どもたちが飛び込んできた。
「ねぇ、エミリーせんせい!はやくきて。」
「あらあら、どうしたの?」
「ジャンが、わたしのこうさく、めちゃくちゃにしたのよ!」
「ふん!ケニーのがへたくそだったからな!」
「あらら」
「エミリー、行ってあげて。」
ポーラに見送られ、エミリーは二人の傍に寄った。二人に声を掛けながら、再度工作を再開させるとあっという間に仲直りしていた。もうすぐ、この可愛い子どもたちと会えなくなるのだ。そう思うと、涙が迫り上がってきて、エミリーは慌てて上を向いた。
50
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
婚約者は一途なので
mios
恋愛
婚約者と私を別れさせる為にある子爵令嬢が現れた。婚約者は公爵家嫡男。私は伯爵令嬢。学園卒業後すぐに婚姻する予定の伯爵令嬢は、焦った女性達から、公爵夫人の座をかけて狙われることになる。
私と結婚したいなら、側室を迎えて下さい!
Kouei
恋愛
ルキシロン王国 アルディアス・エルサトーレ・ルキシロン王太子とメリンダ・シュプリーティス公爵令嬢との成婚式まで一か月足らずとなった。
そんな時、メリンダが原因不明の高熱で昏睡状態に陥る。
病状が落ち着き目を覚ましたメリンダは、婚約者であるアルディアスを全身で拒んだ。
そして結婚に関して、ある条件を出した。
『第一に私たちは白い結婚である事、第二に側室を迎える事』
愛し合っていたはずなのに、なぜそんな条件を言い出したのか分からないアルディアスは
ただただ戸惑うばかり。
二人は無事、成婚式を迎える事ができるのだろうか…?
※性描写はありませんが、それを思わせる表現があります。
苦手な方はご注意下さい。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
夫は寝言で、妻である私の義姉の名を呼んだ
Kouei
恋愛
夫が寝言で女性の名前を呟いだ。
その名前は妻である私ではなく、
私の義姉の名前だった。
「ずっと一緒だよ」
あなたはそう言ってくれたのに、
なぜ私を裏切ったの―――…!?
※この作品は、カクヨム様にも公開しています。
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
本日はお日柄も良く、白い結婚おめでとうございます。
待鳥園子
恋愛
とある誤解から、白い結婚を二年続け別れてしまうはずだった夫婦。
しかし、別れる直前だったある日、夫の態度が豹変してしまう出来事が起こった。
※両片思い夫婦の誤解が解けるさまを、にやにやしながら読むだけの短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる