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第2章 清須景明の悩み
第11話 恋人と婚約者
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「どうも、はじめまして。景明の恋人です!」
にこやかに俺の彼女、姫野 葵があいさつしながら俺の腕に絡みつく。普段なら悪くないが、今回ばかりはタイミングが悪すぎる!!
「ねぇ、今日予定があるって言ってたけど、もしかして……この子とデートだったりした?」
クスクスと冗談めかして葵は言うが、図星だとも言えず俺が少したじろぐと、暮羽が助け舟を出してくれた。
「はじめまして。私は景明様の家でご厄介になっております、須藤 暮羽と申します。景明様がいつもお世話になっているようで何よりです」
いつもの無機質な表情と綺麗なお辞儀をした。葵の目がスーッと暮羽のつま先から頭まで見た。そのあと、ダダをこねるように、
「ねぇ、この子、私にちょうだい!!」
「はぁ? いきなりなんで、そういう話になる?」
「だって、こんな可愛い子を景明が1人占めなんて……ずるい!」
「ずるいも何も、俺の婚約者……はっ!」
今まで身内以外には言わないようにしてたのに、葵が変なことを言うから、思わず口を滑らせてしまった。
「婚約者?! この子が!? ちょっと早く言ってよ!」
葵は居住まいを直して、行儀良くあいさつをする。
「改めまして、はじめまして。姫野 葵よ。景明とは同じ大学の同じゼミで1つ上の先輩なの! こちらこそ、景明がいつもお世話になっております」
「いえ、私なんてお世話になってるばかりで何も。姫野様の方が景明様を支えてあげてらっしゃるようで」
暮羽は無機質なお人形みたいな態度を崩さない。葵はそれを見て不安になったのか、俺に耳打ちする。
「あれ? もしかしてデートの邪魔したから怒っちゃった?」
「それはございません」
聞こえていたようで、暮羽が返事をした。続けて暮羽が言う。
「先ほど、景明様は私を婚約者と呼びましたが、本来は私が成人するまでの後見者でしかないのです。婚約するかどうか決める権限も景明様が持っていて、婚約者というのは周りが勝手に言ってるに過ぎません。ですからお気になさらず。私は先に帰りますね」
深くお辞儀をして、使用人を呼ぼうとスマホをカバンから出す手を、俺は止めた。
「待った! 今日はお前が主役なんだ。主役がいなきゃ困る」
「しゅ、やく……?」
暮羽は少し怪訝そうに俺の目を見た。
あぁもう、今日の予定は台無しだなぁ。本当はサプライズにしたかったんだけど……。もうどうとでもなれ!
俺はわざと威張りくさって命令した。
「今日は、お前の誕生日だろ? そのためにいろいろ用意した。これは命令だ! 子供なら子供らしく、好きな物をねだれ」
「ちょっと……! その言い方はないんじゃない?!」
彼女の葵が、文句を言う。俺は慌てて葵に耳打ちする。
「すまん、後で詳しく話すがああでも言わないと、あの子は何も受け取らない。察してくれ」
葵は少し不服そうに唇を尖らせたあと、小声で俺に言う。
「うーん……。わかったわ。そのかわり、私も一緒に祝わせて?」
「えっ?」
「アンタに任せたら、ろくでもない物選びそうだもの。女の気持ちは女が1番わかるってね!」
「まじかよ……」
こうして俺は恋人と婚約者に挟まれて行動することが決定した。
俺が10代向けの雑貨屋に入ると、葵が俺の手を引いて止めようとする。
「ちょっと……いくらなんでも中学生には、子供っぽいんじゃない?」
「いや、暮羽はまだ小学生だが……」
「え、小学生!?」
「はい、6年生です。今日で12歳になりますが、なにか問題ありましたか?」
暮羽は失態を犯したのかと、一瞬だけ不安な顔を浮かべたが、俺はそれを取り除くようにフォローを入れる。
「何も問題ないぞ? まぁ、暮羽は礼儀正しいし、大人びて見えるからなぁ。……言ったろ? 好きな物をねだれ、と。ここが嫌なら別の所に行くが?」
「いいえ、ここで良いです!」
「そっか、じゃあ好きなの見て来い」
「ありがとうございます」
暮羽は深くお辞儀すると、小物を見て回る。
「……なんか意外ねぇ」
きょとん顔で葵がつぶやくが、俺は暮羽から目を離さないようにしながら、説明する。
「あの子はいろいろと事情があって、俺に引き取られるまで子供らしいことをおそらくしたことがない。だから、ぬいぐるみとか子供っぽい物が好きみたいだな」
「子供らしいことをしたことがないって……そんなことある?」
葵は動揺を隠せないようで顔が引きつる。
「俺も最初は信じられなかったが、俺の家に来てあの子が最初に言った言葉はなんだと思う?」
「え、『これからお世話になります』とかじゃないの?」
「違う」
俺はあの時の情景を今でも鮮明に思い出せる。
「あの子が、暮羽が最初に言ったのは、」
『私は清須に、景明様に仕えるために術者として技を磨きながら生きてきました。
本来なら景明様が私の面倒を見る義務などございません。ですから、景明様が死ねと言うなら、死にます。術者として役に立たないと言うなら、追い出してもかまいません。
私を景明様の婚約者に、との声もありますが、婚約者を決める権限は景明様が持っております。ですので、私が成人するまで待つ必要もありません。それでも、私を妻にというなら、恋人を作ってもかまいません。お飾りの妻でもかまいません。
貴方様の為に、この身をつくす所存でございますので、これからよろしくお願いします』
「と、つらつらと三つ指ついて言ったんだ。10歳の子供がな……」
「えっ……」
つづく
にこやかに俺の彼女、姫野 葵があいさつしながら俺の腕に絡みつく。普段なら悪くないが、今回ばかりはタイミングが悪すぎる!!
「ねぇ、今日予定があるって言ってたけど、もしかして……この子とデートだったりした?」
クスクスと冗談めかして葵は言うが、図星だとも言えず俺が少したじろぐと、暮羽が助け舟を出してくれた。
「はじめまして。私は景明様の家でご厄介になっております、須藤 暮羽と申します。景明様がいつもお世話になっているようで何よりです」
いつもの無機質な表情と綺麗なお辞儀をした。葵の目がスーッと暮羽のつま先から頭まで見た。そのあと、ダダをこねるように、
「ねぇ、この子、私にちょうだい!!」
「はぁ? いきなりなんで、そういう話になる?」
「だって、こんな可愛い子を景明が1人占めなんて……ずるい!」
「ずるいも何も、俺の婚約者……はっ!」
今まで身内以外には言わないようにしてたのに、葵が変なことを言うから、思わず口を滑らせてしまった。
「婚約者?! この子が!? ちょっと早く言ってよ!」
葵は居住まいを直して、行儀良くあいさつをする。
「改めまして、はじめまして。姫野 葵よ。景明とは同じ大学の同じゼミで1つ上の先輩なの! こちらこそ、景明がいつもお世話になっております」
「いえ、私なんてお世話になってるばかりで何も。姫野様の方が景明様を支えてあげてらっしゃるようで」
暮羽は無機質なお人形みたいな態度を崩さない。葵はそれを見て不安になったのか、俺に耳打ちする。
「あれ? もしかしてデートの邪魔したから怒っちゃった?」
「それはございません」
聞こえていたようで、暮羽が返事をした。続けて暮羽が言う。
「先ほど、景明様は私を婚約者と呼びましたが、本来は私が成人するまでの後見者でしかないのです。婚約するかどうか決める権限も景明様が持っていて、婚約者というのは周りが勝手に言ってるに過ぎません。ですからお気になさらず。私は先に帰りますね」
深くお辞儀をして、使用人を呼ぼうとスマホをカバンから出す手を、俺は止めた。
「待った! 今日はお前が主役なんだ。主役がいなきゃ困る」
「しゅ、やく……?」
暮羽は少し怪訝そうに俺の目を見た。
あぁもう、今日の予定は台無しだなぁ。本当はサプライズにしたかったんだけど……。もうどうとでもなれ!
俺はわざと威張りくさって命令した。
「今日は、お前の誕生日だろ? そのためにいろいろ用意した。これは命令だ! 子供なら子供らしく、好きな物をねだれ」
「ちょっと……! その言い方はないんじゃない?!」
彼女の葵が、文句を言う。俺は慌てて葵に耳打ちする。
「すまん、後で詳しく話すがああでも言わないと、あの子は何も受け取らない。察してくれ」
葵は少し不服そうに唇を尖らせたあと、小声で俺に言う。
「うーん……。わかったわ。そのかわり、私も一緒に祝わせて?」
「えっ?」
「アンタに任せたら、ろくでもない物選びそうだもの。女の気持ちは女が1番わかるってね!」
「まじかよ……」
こうして俺は恋人と婚約者に挟まれて行動することが決定した。
俺が10代向けの雑貨屋に入ると、葵が俺の手を引いて止めようとする。
「ちょっと……いくらなんでも中学生には、子供っぽいんじゃない?」
「いや、暮羽はまだ小学生だが……」
「え、小学生!?」
「はい、6年生です。今日で12歳になりますが、なにか問題ありましたか?」
暮羽は失態を犯したのかと、一瞬だけ不安な顔を浮かべたが、俺はそれを取り除くようにフォローを入れる。
「何も問題ないぞ? まぁ、暮羽は礼儀正しいし、大人びて見えるからなぁ。……言ったろ? 好きな物をねだれ、と。ここが嫌なら別の所に行くが?」
「いいえ、ここで良いです!」
「そっか、じゃあ好きなの見て来い」
「ありがとうございます」
暮羽は深くお辞儀すると、小物を見て回る。
「……なんか意外ねぇ」
きょとん顔で葵がつぶやくが、俺は暮羽から目を離さないようにしながら、説明する。
「あの子はいろいろと事情があって、俺に引き取られるまで子供らしいことをおそらくしたことがない。だから、ぬいぐるみとか子供っぽい物が好きみたいだな」
「子供らしいことをしたことがないって……そんなことある?」
葵は動揺を隠せないようで顔が引きつる。
「俺も最初は信じられなかったが、俺の家に来てあの子が最初に言った言葉はなんだと思う?」
「え、『これからお世話になります』とかじゃないの?」
「違う」
俺はあの時の情景を今でも鮮明に思い出せる。
「あの子が、暮羽が最初に言ったのは、」
『私は清須に、景明様に仕えるために術者として技を磨きながら生きてきました。
本来なら景明様が私の面倒を見る義務などございません。ですから、景明様が死ねと言うなら、死にます。術者として役に立たないと言うなら、追い出してもかまいません。
私を景明様の婚約者に、との声もありますが、婚約者を決める権限は景明様が持っております。ですので、私が成人するまで待つ必要もありません。それでも、私を妻にというなら、恋人を作ってもかまいません。お飾りの妻でもかまいません。
貴方様の為に、この身をつくす所存でございますので、これからよろしくお願いします』
「と、つらつらと三つ指ついて言ったんだ。10歳の子供がな……」
「えっ……」
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