上 下
32 / 47
猫の国の動乱

異種族の二人2

しおりを挟む
ナナオウギとフニャンは川の近くにある斜面で二人して横になっていた。
フニャンは河川水が気道や肺に入ってしまったことで肺炎みたいに咳が止まらない様子だった。
ナナオウギはフニャンの背中をさすりながら寄り添う。
ナナオウギ自身も川を流される途中に打撲を負い、体中に痛みが走っている状態であった。
二人共創痍満身の状態でありとても移動などできず誰かが助けに来るのを待つことしかできなかった。
もちろん敵が来ることもあり得る状況なのでまさに神頼みであった。

「ゲホッ、ゲホッ...」

フニャンは苦しそうに咳き込み続け自身の口の中に血の味が混じっているのを感じ取る。
ナナオウギはそんなフニャンにできることがないのをとてももどかしく感じる。
そんな感じで時間が経ち夜になり気温が更に下がってきた。
濡れた服で冷たくなってきたことで小さな体のフニャンは体を震わせて凍える。
そこで自分の尻尾を体に回して猫が寒い時にする尻尾マフラーで少しでも体温をあげようとする。

「これを着て」

ナナオウギは自分の着ていたフランス陸軍のCCE、センターユーロ迷彩のF2ジャケットを脱いでフニャンのパイロットスーツの上に着せようとする。
しかしフニャンはその様子を見て着せようとしたジャケットをはねのける。
初めは意図がわからなかったがフニャンがジャケットとむしり取るとナナオウギの懐に潜りその状態でジャケットを二人にかぶさるようまわす。

「ゲホッ...私だけ...特別扱いしなくていい...」

ナナオウギは顔が真っ赤になってしまう。
救命した時の自分の発言を聞かれていたかもしれないと思うとフニャンをこっ恥ずかしくてちゃんと見れずにいたがフニャンの大胆で気のあるような行動に戸惑いを感じつつも寄り添いたい気持ちもこみ上げていた。

「フニャンさん、川で流されていたこと、覚えていたりはするの?」

「...」

フニャンはナナオウギの懐にうずくまったまま返事しなかった。
ナナオウギは気に障る発言だったかと思い少し後悔してしまう。

「...あんまり覚えていない」

フニャンが返事する。

「そっか、大変だったもんね」

心停止すると脳の血流が止まって意識がなくなると聞く。
やっぱり聞かれてはいないかとナナオウギは少し安心した。

「...でも、ナナオウギさんの手の温かさはずっと感じていた気がする」

「...そっか」

ナナオウギはそう返答するだけだった。
ジャケットをかぶせて密着して防寒に努めたおかげで少しは寒さが楽になり落ち着きが出てくる。
そしてフニャンの咳も一段落した。
そこでナナオウギは夜空を見上げる。

「フニャンさんは夜空に興味があったりする?」

「....ある」

「俺、宇宙が好きでこの星に来てからの天文観測の記事をできる限り欠かさず見ているからもしかしたらフニャンさんの知らないこと答えられるかもだけど」

「....」

フニャンは黙ったまま空を見上げる。

「私達は夜空に強い関心があるけど専門的には余り聞かないようにしてた」

「私達?」

「地球人は夜空の星や月を崇めたりしないの?」

「そんな宗教観があるのか...。確かにないな、神聖そうではあるけどそこまでではない」

「地球人は昼間に活発そうだからやっぱり夜はそんなに大事じゃないのね」

「そうだね。ミャウシア人にとって夜はそんなに大事なんだ」

「昼の活動は避けがちになる。この星の太陽は日差しが全然強くないけど私達の星は日差しが少し痛いの。だから夜が私達にとってのびのびと過ごせる時間。でもこの星に来てからは昼も過ごしやすいから生活リズムが狂いがちになってる」

「なるほど。そうだったんだ」

たしかにミャウシア人は夜戦がべらぼうに強いがそもそもそんな種族で夜行性ならうなずけた。

「だから私達は元来夜空の月や星を学術的に推し量るのはやましいことととしている」

「じゃあ...」

「でも天文学はそんな私達の世界でも発達したし、周りの人がよく思わなかったけど私は宗教と分けて星空のことを学んでみたいとずっと思っていた。だから、よかったら私に教えて、お星様のこと...」

「じゃああのものすごく輝いている星ってどれくらい離れているか知ってる?」

フニャンは漠然と考えるが惑星が億単位で離れていることは聞いたことがあり、当てずっぽで言う。

「100億k○(ミャウシア人の用いる単位でナナオウギは知っている)?」

「残念11光年離れてるんだ」

「光年?」

「光が1年で進む距離で...あそっか、ミャウシアの星の一年は地球と違うか。えっと、8兆8000億k○かな」

「桁が...」

フニャンはスケールの違いに驚愕する。

「だからあの星まで100兆k○は離れてるんだよ」

「星は皆そんなに離れてるの?」

「アレはすごく近いのだよ。夜空に見える星はたいていその十倍から百倍離れてる」

「すごい...」

「しかもあそこに見える薄暗い小さな靄はアンドロメダ銀河って言ってあの星の20万倍以上遠くにあるんだよ」

フニャンは星々をじっと見る。

「...もっと教えて」

「いいよ」

普通の人なら興味が沸かないような話題だったが何も知らないまっさらな状態のフニャンには神聖で神のように祀っていた星々の真の姿に感動を覚えていた。
二人共かなり不器用なので話題はそれで十分だった。
ナナオウギはフニャンにムダ知識をどんどん詰め込んでいく。

「でね、星には寿命があるんだよ。いずれは死んでいく。特にあの一番輝いている星はもう直死ぬんだよ」

「なんでわかるの?」

「星の光を詳しく調べるとその星の大きさと年齢がわかるんだよ。それにあの星の周りにある虹色の星雲も元々は星の一部で死ぬ間際だから剥がれちゃったものなんだ」

「死んだらどうなるの?」

「大きい星は爆弾みたいに爆発するし、小さい星は萎んでいく」

「じゃああのお星様は爆発するの?」

「そうだよ。しかもあの星はウォルフ・ライエ星って種類の星で太陽の200倍も重い星だから爆発はこの大地が焼きただれるほどの威力だって記事には書いてあった」

「大変...」

「まだ先のことだし」

「でもこの世界も直に終わりを迎えるんだ...」

ナナオウギも確かにと思う。
数千年や数万年なんて進化する時間すらない。
何気に未来が確実に絶たれることがわかっているとんでもない世界に転移したと思った。
だがここで転移自体のことを考えると物事はもっと深そうに感じた。
きっと専門家たちもそこには気付いているだろう。
そう遠くないうちに地球へ帰る方法などの問題も噴出するはずだ。
そう考えるとまだ大丈夫に感じた。こ

それにナナオウギにはまだこの星でやりたいことがたくさんあると思った。
そしてフニャンを見る。
フニャンは見られてることに?な顔をして猫耳を動かしながらいぶかしる。

「でもいつか故郷に帰れる日が来ると思うからそんなに心配しなくてもいいよ。それまで一生懸命生きてればいいかなって思う」

「...」

フニャンは考え込む。
それにナナオウギは畳み掛けるように聞く。

「ねえフニャンは愛称があるの?」

「愛称?」

「うん」

「........チェリンって皆は呼んでくれる...」

「チェイナリンでチェリンか。いいね」

フニャンはナナオウギを見る。

「これからもよろしくね、チェリン。あと俺は名前のまま翔太って呼ばれるよ」

「....私こそこれからもよろしく、....翔太」

二人の距離がまた近くなった。
しばらく二人で丸くなっていると翔太が話しかける。

「チェリン、この戦争の行方をどう思う?」

「....」

「俺はこのままお互いに延々と殺し合い続けるのかなって、そう思ってしまっていた。でもこの状況を止めようと必死になっている君に会えてそうじゃないって分かって嬉しかった。一緒に手を取って歩むことだってできるんだって。だから聞かせて欲しいだ、今後のこと。チェリンはこれからどうするの?」

「...」

チェリンは考え込むように俯いたまま返事しない。
だが少し間してチェリンは答えた。

「わからない」

そして更に間を開けて続ける

「でも、このままでいいはずがない。だから蜂起して戦争も民族浄化も止めようって、そう思ってやっているのに全然うまくいかない...。こうしてる間にも前線では大勢が戦って死んでいっているのに、私は無力でどうしようもなくて...。ごめんなさい。今の私じゃ、あなたの期待に答えられそうにない」

チェリンは猫耳を前に倒した状態で少し涙目になる。

「チェリン...」

翔太はチェリンをそっと方に手を回す。
チェリンも少し頭を翔太の懐に向ける。

「大丈夫だよ。世の中はそんなに上手く回るようにできてないんだからさ。最終的になにかしらの成果出せればそれでいいんじゃないかな。それに立派な大義があるんだから、こうやってもがき続けることにこそ意味があるんだよ。だからまだ焦る必要なんてない、まだやれることはあるはずだ。チェリンならきっとこの戦争の先にたどり着けるはずだからさ」

「...翔太」

チェリンが翔太を見る。
翔太はチェリンの眼差しを愛おしく感じ、照れる。

「えっと、...だから、その、一緒に今後のこと考えてみたりとかさ、いい案が出るかもだし...」

翔太は急激にボキャブラリーが貧困になっていきカーッとして頭が回らなくなっていた。

「うん」

締まらなくなって無様になりつつあった翔太だったが元気づけられたチェリンはそんなことは一切気にせず翔太の提案に快く返事する。

「は、はは...。じゃあ、何から考えようか?」

二人の会話は続く。
翌日二人は捜索に来たイギリス陸軍に救助された。
欧州連合軍の増派した航空部隊が一部制空権を奪還したおかげでヘリによる輸送も捗り撤収は迅速に進んでした。

二人は一緒にチヌークに乗るとNATO軍も駐留するグレースランド軍の航空基地に向かう
基地に着けば二人は別れることになる。

「いろいろありがとう、翔太」

「こっちこそ。応援してるよ、チェリン。救国が成功すれば皆が休戦協定に向かうかもしれない。それで戦争をやめられるのを祈ってるよ」

「任せて」

ヘリが航空基地に着陸する。

最後の別れの挨拶を済ませるとフニャンはナナオウギに近づく。
そしてフニャンはナナオウギの顔に口を近づけると目を瞑って舌を出して頬を気持ち程度に舐めた。
ナナオウギは驚きを隠せない。
キスじゃなくて舐められるとは考えてなかったが、たぶんこれはミャウシア人のキスに相当する愛情表現なのだろうと納得し聞き返さなかった。
フニャンの舌は地球人とは全く違い、湿り気があまり感じないザラついた猫舌そのものに感じる。
なので不快感はあまりなかった。

そしてナナオウギがヘリから下りて二人はそれぞれの使命を背負って別れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。 そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。 そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる―― 陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。 注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。 ・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。 ・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。 ・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。 ・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

異世界転生した俺らの愉快な魔王軍

喜多朱里
ファンタジー
魔神の力によって異世界転生した憐れな元日本人達は、魔王軍となり人類と戦う尖兵とされてしまった。 最も魔力を持っていたという理由だけで魔王となった転生者は、前世の知識と転生者同士の魂の繋がりを利用して、自分達に馴染み深いネット掲示板を模した『転生チャンネル(通称:Tch)』を構築する。 圧倒的な情報伝達速度で人族を圧倒する――なんてことはなく、今日も今日とて魔王軍は魔神様に怒られない程度に働いて、自由気ままに異世界ライフを楽しんでいた。 これはいずれ世界を支配する愉快な魔王軍の異世界攻略記。 なお現地民からすると恐るべき軍団であり、両陣営の温度差は凄まじいものとする。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

処理中です...