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猫の国の動乱

異種族の二人

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捕虜になったミャウシア軍偵察部隊は武装解除し、フニャン達に説得されアーニャンに適合する血液型の兵士の献血に協力してくれた。
採血によって得られた輸血パックをミリタリーリュックへ詰める。
直ちに部隊へ持ち帰るため移動するがその前に偵察部隊がフニャンに事情を聞くことになった。

「じゃあ派遣軍と海軍が連動して動く様に工作すればいいわけなのか?」

「そのとおりです。ですが、それには失敗しました。参謀総長に我々の動きを感づかれ、私は命からがら軍を抜け出して今に至ります。」

「じゃあ反逆は失敗したってのか?」

「それはまだわかりません」

「どういうことだ?」

「派遣軍の兵士達にとって今度の戦争には大義が何一つない、ただタルル将軍に好き勝手踊らされている現状に強い不満と憤りがあるはずです。私は同胞に放送や何かで呼びかけたいと思います」

一同が驚いたり呆れた顔をする。

「それでうまく行くのか?」

「自信はありません。ですが最後まで足掻きたいと思います。」

「...」

ミャウシア軍兵士達は黙る。
次の発言はネガティブなものになるとフニャンは覚悟していたが、実際は意外な反応だった。

「そうか、なら私達が軍に戻って反逆しやすいように工作に協力すれば成功の確率は高くなりそうだな」

「!」

フニャン達は偵察部隊の指揮官を注視する。

「気に入ったよ、私達にも一枚噛ませてください」

「...ありがとうございます」

「必ず成功させてください」

「お約束します」

こうして連合軍部隊はミャウシア軍偵察部隊を開放して帰路についた。
渓谷に沿ってあるき続ける。

「ありのまま司令部に話していいかな?」

ナナオウギは歩きながらフニャンに尋ねる。

「お願いします」

「わかった。それと一ついいかな?」

「何?」

「君って、とてもなんていうか、凄くかっこいいと思う」

「私が?」

「だって大勢のために大事をなそうとしてるんだもん。俺が軍でやりたかったことと同じたから、憧れるよ」

「私は、そんなじゃないよ...」

「違わないよ」

「...私は大勢の罪のない人を手に掛けてきた。単に罪滅しをして罪悪感を紛らわしたいだけで...」

「...そうなのかもしれないけど、偽善でも救われる人がいるならそれだけで十分だよ」

「...」

フニャンはナナオウギを見つめ返す。
その表情は感謝の気持ちで一杯に見える。
ナナオウギはその表情を見てまた照れてしまう。
そして薄々フニャンに気があるようなことを口に出そうとするか悩んでしまう。

もう一度フニャンを見てやっぱり一言言っておこうとするとフニャンは険しい表情で空を見ていた。
何か遠くの空を見ていた。

「どうしたの?」

ナナオウギが訊ねる。

「まずい」

「何が?」

ナナオウギも空を見る。
しかしフニャンの視力に勝てずなんだかわからないが何かが来るような気がした。

そしてフニャンは叫ぶ。

「ミーガゥアニャット!(敵襲!)」

フニャンはとっさにミャウシア語で叫んでしまう。
ニーナとニャーラも既に空を見て気付いたように凝視していた。

ナナオウギは間違いないと考えフニャンの声に戸惑う仲間に通訳する。

「敵航空部隊だ!」

ナナオウギが注意喚起した時にはレシプロ機特有の轟音が聞こえ始めていた。
部隊は山肌にあたる位置にあるため急いで森に隠れようとする。
ミャウシア軍航空部隊は既に狙いを定めるように接近していた。

フニャンは足が思うように動かず逃げ遅れてしまう。
ミャウシア軍のNY-1K戦闘機がフニャンに狙いを定めて接近してくる。
そして機首の37mm砲を単連射してきた。

ナナオウギはとっさにタックルするようにフニャンを機関砲から守ろうとした。
37mm砲弾の爆風で二人は飛ばされ斜面を滑落してしまう。
滑り落ちるなか何とかナナオウギは木に捕まり、フニャンも滑落を止めている様子だった。

「フニャンさん、無事ですか?」

ナナオウギがフニャンに声をかけるもなぜか返事がない。
よく見ると頭を打ったのか頭に血が付いて気絶している様子で木や岩に引っかかっていたのだ。
ナナオウギは不味いと思い、何とか急斜面を伝って移動しようとするが思うようにいかない。
下は渓流で落ちたら大変だった。

だが追い討ちをかけるようにミャウシア軍の戦闘機が再接近してくるのが音でわかる。
完全に的としか言いようがない状態であり、絶対絶命のピンチだった。
ナナオウギはならばと意を決して斜面の足が付きそうなところに飛びかかりそのまままたジャンプしてフニャンを捕まえるとそのまま落ちていく。

直後、戦闘機の砲弾の着弾音が轟く。

そしてフニャンを抱いたナナオウギはタイミングを見て斜面を蹴って渓流にダイブした。

ジャボン!

二人は雨で増水した渓流に落ちるとそのまま流されていく。
ナナオウギは意識がないフニャンが溺れないようにとにかく体をはってバタつく。
その間ところどころでフニャンを庇って岩にぶつかり打撲していった。

しかもフニャンを抱きかかえているのでうまく水をかけなくて浅瀬に向かえない。
そのまま力尽きるまで流され続けるかと思うくらい長い時間濁流の中をもがき続ける。
だが川幅が広くなり濁流が弱まったところでなんとかナナオウギは浅瀬に流れ着くことができた。

岸に這い上がると意識のないフニャンを砂利の上に乗せて呼吸を確認する。
フニャンの呼吸は非常に弱々しかった。
だが岸にあがってそんなに時間を置かずにフニャンは咳き込むと静かになった。
慌てて息を再確認すると呼吸も脈も止まっていた。

ナナオウギは一瞬頭が真っ白になると血相を変えてフニャンに顔を合わせる。
躊躇すればフニャンの消えかけの命は確実に亡くなるのは確かだった。

そしてフニャンの気道を確保するとナナオウギはフニャンの口に自分の口を合わせ人工呼吸を始めた。
何度も息をフニャンに吹き込んで人工呼吸を行うとパイロットスーツの一部を脱がせるとフニャンの小さな体に手を当てて心肺蘇生を行う。

しかしフニャンは息を吹き返さない。

「ここで死んじゃだめだ!大勢の人を救うって決めてるんだろ!君の活躍を見せてくれよ!」

心臓マッサージを続けながらナナオウギはフニャンに呼びかけ続ける。

「頼む...君のことが好きになったんだ!」



「ゲホッ!」

ナナオウギの呼びかけに呼応するようにフニャンは大きく咳き込み始め、口から水が滴り出す。
急いでフニャンの姿勢を起こすとフニャンは咳き込みながら口から水を吐き出し続ける。
咳は続くが途中大きく息も吸い込んでは吐く様子から呼吸は安定させることに成功し脈も戻っていた。

そして瞼があがり金色の鋭い瞳が微かに姿を表すとナナオウギに向けてかすれ声で一言発した。

「...こ...ここは...?」

「渓流の下流だよ。落ちて流されていたんだ」

「そう...ゲホッ」

「大丈夫か?無理してしゃべらなくて...」

「...ありがとう。私のことを何度も助けてくれて...」

フニャンは弱々しい笑顔でナナオウギを見つめた。

ナナオウギは恥ずかしさや状況を気にするのをやめてフニャンを見つめ続けた。
フニャンもナナオウギを見つめ返し続けた。
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