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猫の国の動乱

エネミーライン2

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<<グレースランド国境線付近の山中>>

戦闘機から脱出したフニャンは風の音を聞きながら地平線に沈みゆく恒星を高度3000フィート(900メートル)から眺める。
地球人にとってもミャウシア人にとっても自分たちが住んでいた星とは見た目が大きく違う恒星でありより赤く大きかった。
ちなみにミャウシアのあった星系の星はF型主系列星であり太陽より白く強烈に輝く星で見た目は若干だがシリウスに似ている。

フニャンは恒星の方向と下に見える地形を頭に叩き込み逃走経路をすぐに弾き出す。
そして視線はアーニャンの方に移る。
流石に日没で暗く遠すぎてよく見えないが少しぐったりしているように見えた。
いざとなれば担いで逃げるつもりだが逃げ切れるか自信があまり沸かなかった。
というのもミャウシア人の身体は瞬発力や俊敏さでは地球人を圧倒するがその反面持久力は低くすぐばてて回復にも時間が少しかかる。
しかも敵がすぐ近くまで接近しているのが見える。
ミャウシア人は猫みたいに夜目がとてつもなく利くので夕暮れの薄暗い地面にいるミャウシア陸軍の地上部隊を肉眼で確認する。
当然こちらのパラシュートも向こうには見え見えだ。
追いかけられるのは必至だった。

そしてアーニャンが先に野原に着地する。
時間を置いてフニャンも着地するが林の中だったので案の定パラシュートが引っかかり宙吊りになった。
地面まで7mはありそうだったがフニャンは問題視せずにパラシュートのピンを外してそのまま落下していく。
着地は見事で尻尾を使って姿勢を整え両手両足を地面つき動物のように柔らかい体を活かして衝撃を吸収すると何事もなく立ち上がる。
地球人には真似出来ない芸当だがミャウシア人には木登りも高所からのダイブも朝飯前だった。
いかにも猫系亜人特有の身体的特徴と言える。

フニャンは移動を開始しアーニャンの降下地点へ急ぐ。

一方、フランス陸軍特殊部隊は山の尾根を目指ざす小隊、尾根を迂回し斜面を移動する小隊などそれぞれ役割分担して移動していた。
斜面を進む回収部隊は獣道もない山林をまっすぐ最短コースで移動する。
ナナオウギは精鋭部隊選抜ではないので彼らの体力に驚きつつ必死についていく。

「ナナオウギ。ミャウシア語を話せるのはお前だけだ、しっかり付いてこいよ」

小隊長がつらそうなナナオウギを励ます。
期待されているのだからそれに答えなければと思いナナオウギはFA-MAS小銃を強く握りしめながらひたすら登山する。
ミャウシア人に出会ったらまずどう対応するかを頭の中で組み立てていたが同時に、また小さくて可愛い猫耳の女の子なのだろうと少し場違いな期待をしてしまう。
もちろん期待は間違っていなかったし、少しは緊張を紛らわすことができた。

その頃フニャンはアーニャンを発見し駆けつける。
アーニャンはパラシュートを外してすらいなかった。
フニャンはアーニャンに近づくと体を起こそうとする。

「ぅっっっ!...」

アーニャンは激痛のせいか顔を引きつらせ呻く。

よく見ると腹部から血が染み出している。
急いで確認するとそれは銃槍ではなく被弾したときに生じた破片が刺さったもので深いが致命傷ではなかった。
出血もそこまで酷いわけではない。
だが神経に触りすぎているのかアーニャンは激痛にうなされていた。

「しっかりして。大丈夫、傷は深くない」

「ごめん、隊長...」

アーニャンは悔しそうな顔で謝る。

「それより歩けそう?」

「たぶん、でも腹筋使うとすごくしみてヤバイ...」

「とにかく移動しましょ」

そう言うとフニャンはアーニャンの肩を慎重に抱えて立たせるとゆっくり動き出した。


<<ミャウシア軍侵攻部隊>>

辺りがすっかり暗くなってきた頃だった。

「何?見つけ次第射殺しろ?....はい、...はい、わかりました」

「どうしたんです、連隊長?」

「さっき降下した奴らを殺せって、しかも最優先だと」

「マジですか?」

「ああ、とりあえずウチラの連隊はこのままあの山の麓を目指すぞ」

「了解」

フニャンたちに今度は地上部隊の追手がかかる。

フニャンはアーニャンの肩を担いで歩き続けていたがアーニャンの体力の消耗が激しすぎてどんどん歩くペースが落ちていく。
終いには足が動かなくなってしまうのだった。

「隊長、あたいを置いていって....。生き残るべきは隊長だから...」

「絶対嫌」

フニャンは語気強め申し出を拒絶すると無理やりアーニャンをおんぶする。

「っ!...」

アーニャンは抵抗しようとしたものの力が入らずおんぶの衝撃による激痛で抵抗できなかった。

「隊長....」

アーニャンの呼びかけをフニャンはとことん無視する。
フニャンはアーニャンを担いで意地でも逃げ切るつもりだった。
フニャンは息切れしないよう呼吸の仕方を変えて酸素の取り入れを心がけ斜面を歩いていく。

しかし開けたところに出た時だった。
麓の方数百m先の原っぱを歩くミャウシア軍の歩兵部隊の姿があることにフニャンが気付く。
そして悪いことに相手からもこちらの存在がわかってしまうのだった。
地球人なら真っ暗で何も見えない状況でも暗視力で遥かに優れるミャウシア人には日中のように明るいようなものだった。

「いたぞ、あそこだ!」

ミャウシア軍歩兵部隊が銃撃を始めた。
ボルトアクションライフルをコッキングさせ射撃してはからの薬莢を排出して撃ち続ける。
中には重機関銃をセットして射撃しようとするものまでいた。

ターン!

ターン、ターン!

タタタタタタタタン!....タタタタタタタタン!

フニャンの周辺の地面から跳弾や着弾の音がバスバス鳴り響き、土煙もわいて出る。
更に機関銃の発砲が始まるとそのけたたましさは凄いものだった。
フニャンは死物狂いでアーニャンをおんぶしながら開けたところから出ようと全力疾走する。
なんとか被弾せずに走り抜けたものの体力を相当消耗してしまった。
額から汗が滴る。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...」

アーニャンはただただフニャンを心の底から応援するしかなかった。
自分がまたおんぶを止めさせようとしても余計体力を使わせてしまうだけだとわかっていたため何もできない。
そしてフニャンは自分にムチを振るようにまた歩き始めた。

フランス軍部隊は銃声が鳴り響くのが耳に入る。

「第3小隊、どうなっている?状況は?」

「どうやら例のパイロット二人が開けた斜面で下から銃撃されたようだ。大丈夫だ、逃げ切っている。だが追いつかれるのは時間の問題だな。仲間を担ぎながら歩いている。もうすぐそちらで捉えられる程の位置まで来ているぞ」

「了解」

無線でやり取りして状況把握する。
回収部隊は散開を始めフニャンが通りそうなルートをカバーする。
ナナオウギもFA-MASの安全装置を解除しいつでも撃てる体制を整える
暗視ゴーグルに映る緑色の視界をくまなく見えるがパイロットの姿はまだ見えなかった。
一体どこにいるんだと思いつつも目を凝らしながら進む。

この時フニャンはほとんど動けないくらい疲労困憊の状態にあった。
気力だけで足を動かしているようなもので一歩、また一歩と足を前に進めるのでやっとだった。
追手は既に100m背後の茂みの先であった。
そしてフニャン達を先に視界に捉えたのは追手だった。

「撃て、撃て!」

ターン!ターン!

ターン!

フニャンは咄嗟に大木に姿を隠す。
だがこれでもう移動は不可能になってしまった。
出ればこの鈍さでは確実に撃たれてしまうのは明白であり、逃げ場なしの絶体絶命の状況となった。

「アーニャン...」

フニャンはアーニャンに声をかける。
アーニャンはフニャンの言いたいことがわかっていたのか先に返答する。

「隊長は最善を尽くしました...謝ったりしないでください...」

「...」

フニャンは無言で少しだけ嬉しそうに苦笑いした。
覚悟を決めたのか表情が穏やかになる。
追手がフニャンの隠れる大木に近づく。

そしてその時は訪れた。
フニャンの目の前に姿を表したのはナナオウギ兵長だった。
ナナオウギはフニャンに目をくれずにフニャンに近づいてきていたミャウシア兵に向かってフルオート射撃する。
耳のいいミャウシア兵たちは既に前方から何かの集団が近づいていたのを察知していたため木や出っ張った根っこの裏にすぐ隠れやり過ごしたので射撃は当たらなかった。
フニャンは疲れていたせいか前方の音を聞き取りそびれていたのだ。
フランス軍兵士が続々と視界に入りFA-MAS小銃やミニミ軽機関銃で弾幕を展開して援護する。

「聞こえるか?我々は連合軍だ。君たちを保護しに来た!」

フニャンはその声を聞くと何も考えず最後の力を振り絞り一番近いナナオウギのところまでアーニャンを両手で持ち上げ全力疾走する。
ミャウシア兵は手榴弾を投げ始めていたため、フニャンの後ろで爆発が起こると吹き飛ばされた勢いでナナオウギに激突する。
ナナオウギはフニャンとアーニャンを抱きしめ抱えるように背中から倒れる。
衝撃で息が詰まりそうになるもミャウシア人2人の体重はたかが知れているので100kg近いおっさ兵士を受け止めるより色んな意味で良かった。

そして体を起こしたナナオウギとフニャンは目があった。
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