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猫の国の動乱

エネミーライン1

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<<グレースランド国境付近の絶対防衛線>>

ミャウシア軍は120個師団を投入して連合軍の防衛戦の突破を試みる。
作戦としては縦深陣で前線を構築しつつ後方の温存兵力を任意の前線に投入し一気に敵を押しつぶすものだった。
前線は1000km近く伸びておりそれぞれの前線の兵力はそこまで多くもないが両軍合わせ500万人と数万の戦車や戦闘機が動員される大会戦だ。

タタタタタン、タタタタン!

ターン、ターン!

200m越しにお互い機関銃やボルトアクションライフルで撃ち合う。
ここで互いの兵器の性質の違いが表面化してきた。

ミャウシア軍のボルトアクションライフルは一般的な6mmから7mm口径のライフル弾ではなく5.5mmのライフル弾を使用していた。
これは身長130cmから140cm、体重30kg程度のミャウシア人には大口径ライフルは少し反動がキツく銃も重く大きいものになりがちなので小口径ライフルが好まれたためである。
それに弾をより多く運べる上に初速は1000m/s以上あり、中距離までなら命中精度も良かったので交戦距離が長くない戦場では都合が良かった。
これは7.62mmNATO弾が5.56mmNATO弾に取って代わられた現象と同じで小柄なミャウシア人の都合で考えれば尚更である。
その代償として交戦距離が400m以上ある長い開けた戦場ではこの5.5mm弾は弾道がふらつき始め命中精度が低下する。

一方の地球人と同じ体格の犬耳種族のグレースランドやザイクスの兵士は7.7mm弾や7.9mm弾を使用していてミャウシアの5.5mmと比べ破壊力抜群で長射程だった。

パシン、パシン!

バスン!ドタ!

跳弾の音に紛れるようにミャウシア兵が被弾して倒れる。

「衛生兵!」

二人がかりで撃たれた兵士を引きずる。
撃たれた兵士はバイタルを貫通され動脈破裂による激しい出血でそのまま死亡してしまった。
ミャウシア軍兵士たちは敵の大口径弾のストッピングパワーの強さに驚き、どこを撃たれても失血でイチコロと過大評価気味に恐れられる。
実際子供みたいな体格で猫みたいに柔らかい体つきのミャウシア人には破壊力がありすぎた。

ではミャウシア軍の小口径弾は威力不足かと言われればそうではない。
5.5mm弾の内部には空洞が設けられ、被弾したら弾が横転して銃創を巨大化させる構造を採用していた。
またライフルもフルレングスで5.5mmもフルロード弾なので5.56mmNATO弾よりは射程と威力があった。
なので犬耳兵士や地球人兵士に致命傷を与えるのには十分だった。

「ぐああああああ!」

「止血しろ!」

「衛生兵!」

やがて被弾した兵士は出血性ショックで気を失い、その後死亡した。
両軍どんどん死傷者が増加していくのだった。

戦いが始まってすぐに戦局はミャウシア軍優位で進み始めた。
ミャウシア軍は豊富な戦力でとにかく防御の薄い防衛線を突破してはそこから雪崩のように部隊を侵入させ迂回攻撃で連合軍を後退させようとする。
連合軍側は多数のトーチカや塹壕を設置した絶対防衛線を固執するように解囲攻撃を防いで守ろうとするもすぐに兵力が払底して押しとどめられなくなる。
そして1日で初期の防衛陣地の3割がミャウシア軍に抑えられ、連合軍は防衛線を構築しながら苦しい後退戦を行う準備を始めた。

「突撃いいいい!」

別の前線を突破し迂回してきたミャウシア軍兵士が連合軍の塹壕を背後や側面から肉薄して突入する。
こうなると防衛側は総崩れになってしまう。
数の暴力で塹壕をに突入した猫耳兵士がトーチカや地下壕から出てきた犬耳兵士を次々射殺していく。
大きな火炎放射器を持った女性兵士が遅れてやってきて地下壕やトーチカにそれを放つと中から火だるまの兵士が続々と出てきては射殺された。

「止めええええ!、撃ち方止めえええ!」

ピーーーーーーー!

兵士たちが塹壕への銃撃を止める。
銃声がやむと大勢が疲れたように座り込んだ。
そこで死んだ敵兵士たちを覗き込む。
士気が高ければ無駄口が溢れるところだが今の彼女たちにはそんな余裕はなかった。

更にミャウシア軍は初戦で戦局が決したのを見計らい畳み掛けるように航空戦力を活発に動員して敵の防御線構築や撤退の妨害を始める。
今までは敵爆撃機や攻撃機を追い払うのがメインで積極的に動かなかった。
それはNATO軍戦闘機が連合側に配備されていたのでできる限りゲリラ的に運用して出血を減らすのが目的だったからだ。
実際、NATO軍の戦闘機は数が限られ対地はせず制空運用だけに限っていたので戦術としては妥当だった。
そして地上軍の電撃作戦が成功したのに合わせて本格的に航空部隊を投入し始め、両軍は激しい空中戦を始める。
フニャンの戦闘機もその中の一機だった。


<<前線上空>>

グレースランド軍とミャウシア軍の戦闘機が空中戦を行う。
こちらも互いの戦闘機の性質がだいぶ違い、ミャウシア軍の戦闘機のほうが性能的に不利だった。
しかしそこは持ち前の数で押し切る。

フニャンは始終上を取っているグレースランド軍の戦闘機を低空に引きずり込もうとする。
そして食いついた相手に旋回を強要してエネルギーをスポイルする。
重量の大きいグレースランドの戦闘機は離脱しようとするが小型で瞬発力で勝るミャウシアの戦闘機を短時間で振り切れずフニャン機の機銃掃射で炎上墜落していく。
だが皆がフニャンのように高度なテクニックで敵を撃墜できるわけではなく味方もそれなりに落とされていった。
とにかく連合機のほうがスピードも高高度性能も高いので数で押さないと苦戦した。

その頃NATO軍はとにかく戦闘機を出してミャウシア軍機を手当たり次第撃墜していく。
味方地上軍の支援が命題だったので敵の攻撃機を優先で排除していくがとにかく数が多い。
ミサイルの残弾はあっという間に払底し途中からほとんど機銃攻撃で撃墜するようになり、迎撃効率は低下していった。
ミャウシア軍航空部隊の損害は軽度で済んだ。

戦いはなお続く。

<<ミャウシア陸軍航空基地>>

「いいんですか、戻ってくるのを待たなくて?」

「知るか。生意気だったんだよ、弱小部族の小娘が陸軍のエリートだと?笑わせる」

「こちらは第9野戦航空基地司令官だ。第421航空師団本部飛行隊、聞こえるか?」

「聞こえます、どうぞ」

「第3飛行隊のフニャン中佐とアーニャン大尉に国家反逆罪の容疑が掛かっている。逃亡する可能性があるため即刻撃墜しろ」

「...もう一度言ってください?」

「繰り返す、フニャン中佐とアーニャン大尉に国家反逆罪の容疑が掛けられた。緊急につき即刻撃墜しろ」

「了解」

フニャン機は飛行隊を統率しながらグレースランド軍の戦闘機部隊と空中戦を続けていた。
グレースランドの戦闘機部隊に苦戦しながらも撃墜を重ね制空権を掌握しつつある。
だがそれは唐突で、戦闘が一段落して補給のため基地へ帰還しようとしていた時だった。

「各飛行隊全機に告ぐ。フニャン中佐とアーニャン大尉を撃墜せよ」

その言葉に飛行隊のパイロットたちは耳を疑うがとうのフニャン達は反逆行為がバレてしまった悟った。
しかし短時間の思考でこれはラッキーだったかのかも知れないという考えに至る。
これが基地内や帰還後であれば逃げ場がない。
そう、ここはグレースランド側へ逃げ込むしかないと頭をフル回転させ結論を導くのだった。

「...よってフニャン中佐の逃亡を手助けしたものは同様に国家反逆罪が適応される。直ちに撃墜せよ」

「隊長、何かの間違いですよね?」

フニャンは部下機から無線で質問される。
しかし黙ったまま沈黙を続け、部下たちは若干だが納得してしまう。
そしてフニャンは意を決してアーニャンにハンドサインを送る。

(行こう)

(アイアイサー!)

アーニャンは陽気にハンドサインを返す。
2機の戦闘機が一気に旋回、変針する。
フニャンの飛行隊のメンバーたちは動揺して追撃できない者がほとんどだったが何機かは追撃を始めた。


<<グレースランド勢力圏>>

連合軍とミャウシア軍の地上部隊が入り乱れ始める中、フランス陸軍第13竜騎兵落下傘連隊が山や森林、各所で偵察、情報収集を行っていた。

「ポイントEからイースト20kmまでのラインに敵が侵入したのを確認。送れ」

「了解」

「敵が接近中だ。第2中隊、指定ポイントへ移動開始しせよ」

「移動開始」

フランス陸軍の特殊作戦旅団に所属する精鋭部隊であり現時点の任務は味方連合軍部隊の情報面での支援だった。
フランス陸軍第1海兵歩兵落下傘連隊もその情報に基づき支援作戦を継続していた。
他にもイギリス陸軍の特殊部隊や地上部隊も投入され作戦を遂行している。

フランス陸軍第13竜騎兵落下傘連隊の中にはナナオウギ兵卒の姿もあった。
外人部隊所属でフランス国籍もないナナオウギは特殊部隊や一般部隊に基本所属はしないはずだった。
しかしミャウシア語を話せる者が軍内でほぼ皆無だったことから通訳係も兼ねて特例として短期間の訓練を受け合格判定をもらった上で所属替えしていたのだ。

「敵が接近中だ。斥候部隊も潜んでいる可能性がある。注意せよ」

「おら、もたもたするな」

精鋭部隊なだけにナナオウギは彼らに追従するので精一杯だったがこんな重要な任務につける機会はまずないだけに充実感はあった。

「こちら第2小隊。上空にミャウシア軍の戦闘機部隊が飛来するのを確認した。注意せよ」

各部隊の兵士たちはまたかと思いつつ対空警戒を強める。
しかし敵戦闘機部隊の様子が変だった。
先頭の2機の戦闘機が他の戦闘機に追われているように見えた。
そして他の戦闘機から先頭の2機に向かって曳光弾が飛んでいくのを目の当たりにして、何が起きたか理解できた。

「同士討ちしているぞ!」

「こちら第2中隊....」

司令官が無線にかじり付いて指示を仰ぎ始めた。

「スティンガー撃ち方用意!」

防空兵がアメリカ製携行式地対空ミサイル、FIM-92スティンガーの発射体制を整える。
照準器が戦闘機を射線に捉える。
夕方の山林に潜むフランス軍特殊部隊は戦闘機部隊にまず見つかりはしないと思われるがもしもの時はこれで撃墜する。
戦闘機達は既に射程内に侵入していて、そうこうしているうちに逃げていた戦闘機の一機が煙を吹き始める。
もし援護してやるなら今やらないともう持ちそうにないくらい追い詰められている様子だった。

「攻撃指示が出た。追われている戦闘機を援護する!スティンガー撃ち方始め!」

「コメンスファイア!」

パシュ!ズゴオオオオオオオオオオ!

スティンガーの弾頭がブースターによって撃ち出され数m先でロケットブースターを点火して加速していく。

パシュ!ズゴオオオオオオオオオオ!

他の防空兵もスティンガーを発射する。

一方、フニャン達はいよいよおしまいと言わんばかりに追い詰められていた。
煙を吹いているアーニャン機はもう持たないのは明白だった。
かく言う自機も被弾痕だらけになり昇降舵が全然効かなくなってきていた。
そしてもうこれまでかというところだった。

ドオオオオン!

後方の戦闘機が爆発炎上して落ちていった。
何事かと思ったがこの爆発は見覚えがあった。
NATO軍という勢力が主力兵器として使っているミサイルという万能兵器だ。
さらにもう1機が爆発して炎上し墜落していく。
下から攻撃されている様子なのでどうやら防空砲兵の対空陣地の真上に来てしまっていたらしい。
追手の戦闘機達は例の勢力の対空陣地に突っ込んでしまったことに気づき慌てふためき始めた。
更に追い打ちをかけるようにまた追手の戦闘機が爆発し煙を吹きながら落ちていく。

追手は遂に追撃を止め引き返し始めた。
フニャンは例の勢力が自分たちを援護したのだと理解する。
そしてフニャンはアーニャン機に近づいて脱出するよう即そうと近づく。
よく見るとアーニャンは被弾しているのか若干の血痕が付いているのが目に入る。

「脱出して!」

フニャンは焦るようにアーニャンに呼びかける。
アーニャンは力を振り絞ってなんとかキャノピーを動かすと脱出してパラシュートを開いた。
それを見届けたフニャンは旋回してアーニャンの降下ポイント上空で脱出してパラシュートを開いて降下を始めた。

一方のフランス軍部隊は慌ただしかった。

「まずいですよ。降下したのは丘陵の反対側でもうじき敵部隊が到達する」

「助けないのか?」

会話が飛び交い、降下した戦闘機パイロット回収するかで意見が錯綜する。

「司令部から命令が下った。我々はこのまま敵の追撃を受けるギリギリまで進出しパイロット回収に務める。第3中隊は第1海兵歩兵落下傘連隊の降下ポイントを確保に動くそうだ。各員気を引き締めろ」

「了解」

これはもしかしたらミャウシア軍の不穏な動きを知るいいチャンスになるのでは考え実行されたものだった。
部隊はフニャン達の救出に動き出した。
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