桜稜学園野球部記

神崎洸一

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「さて、今から夏の甲子園だが…俺らは準決勝で負けた。それくらいの心持ちで居るべきだと俺は思う。チャレンジャーとして、深紅の優勝旗を取りに行く。それでいいな?」 

開会式も終わり三塁側ベンチ。桜稜学園のメンバーはそこを拠点とすることになる。
そして主将の一条から心意気を聞かされ、プレイボールの時が近付いてくる。




「ここから先攻、神奈川県代表桜稜学園のラインナップを紹介していきます。1番センター長宗我部、身長2メートル超えの長身。2番セカンドが一条、攻守に秀でた優れた選手。3番ショート橋本、積極性のあるプレーが持ち味。4番ファーストに中之島、左打者です。県大会では6試合で5本17点と頭ひとつ抜けた打撃成績。5番キャッチャーが鶴岡、力のある打撃には定評があります。6番サード財前は得点圏打率が高く気の抜けないバッター。7番レフトが江島、強打で俊足。8番ライト神崎、意外性のある選手。そして9番が田村、投手ですが打撃もこなします」

ラジオのアナウンサーがそれぞれの選手の紹介をしている。


「そして控えに入っているのが投打共に圧倒的なエース南と小柄ながらにパワーのある背番号2の北。そして2年生投手が島岡宇野若宮の3人、それぞれ異なるタイプの投手。15番が主に代走として出場した関、16番土生はアベレージヒッター、17番吉田誠次の打撃能力は2年生ながらにプロ注目という逸材。18番の桂、19番西園寺、20番𠮷田知和の1年生3人は県大会出番がありませんでした」


 
「…言われてら」
「ほっといてやれ」


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「深紅の優勝旗を目指し駆ける夢舞台、甲子園。その開幕戦が今、プレイボール」


「1番 センター 長宗我部くん」 

「香川県代表善通寺国際のエース古津を前にどう攻略していくのか」 

「どうせてめーにゃ打てねえんだ!気い抜いて適当に三振してこい!」
「うるさい!黙れ中之島!」
(こんなのが勝ち上がってきたとか世も末だな)



「さあ古津、ワインドアップから第1球、ここから今年の甲子園は始まります」
(俺の最後の甲子園、か…)


「え?」
「初球!長宗我部捉えた!レフトスタンドへ先制のホームラン!勝利の女神を叩き起こすかのような鮮烈な一撃!開幕試合初球先頭打者ホームラン!」


「まじかよ」
「打つとは思っとらんかったわ」
「俺の1年3ヶ月振りのホームランをもう少し祝福しようとは思わないのか!?」
「その試合も先頭打者ホームランだったよな」
「そん時40点くらい取ったんやっけ」
「…よし一条!ボコボコにするぞ!」


「他人を舐め腐ってる時が1番元気なんだよな、あのクソ野郎共は」

「一条初球を上手く捉えライト方向へ安打を放ちました」 

「引っ張って打ちました3番橋本レフト方向ワンバウンドヒットになります」




「古津勢いを止められず無死満塁、ここで財前の打順」

「俺らみたいなモブが活躍する試合も、たまにはいいなあ」 
「打球はセンター方向!白球はそのままスタンドへ!」



「レフト常永ファインプレー!これでようやくスリーアウト!桜稜学園3本塁打7得点の猛攻!」




「はあ…こんなことされちゃやる気が無くなるよ」
「ヒット打った分際でか」
「こいつホームインもしたしな」 
「少し黙って」


「桜稜学園、先発投手は背番号10の田村。3試合で19回を投げ9失点の防御率4.26被安打は23といったところ、奪三振はふたつと非常に少ないピッチャー」


「3番羽立内野ゴロ、田村自らベースカバーに入りスリーアウトチェンジ」

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「常永打ちましたがショートゴロ6-4-3のダブルプレー、これでスリーアウトチェンジ。3回を終え14-0と桜稜学園の大量リードとなっています甲子園開幕試合は流れに乗った桜稜学園を止められない善通寺国際という構図になっています」


「打たれても良いっつってんのに打たれねーな」
「面白味がねーんだよ、わかるか?田村」
「そうは言ってもあっちが勝手に打ち損じてるんだよ!分かってないのはそっちだ!」 
「信用ならへん」
「ふざけるなよ南!」
「やんのか田村!」
「しゅ、主将…」
「あいつはもうネクスト行ったぞ?」
「うげ」


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「じゃあ誰がこの試合1番目立ったかの勝負しようぜ」


「初球ホームランの俺だな」
「2回の俺のファインプレーだぞ」
「ファーストゴロをヒットにしたこの江島に違いない…ツーベースでサイクルだし」
「サイクルヒットはワイが4打席で決めたからもうそれで終いやで」
「2本8打点のこの俺、財前を置いて他に居まい」
「…俺よくもコイツらと2年間野球やってこれたなぁ」
「何か言うたか?2四球」
「…ほっとけ」

「きょうは残り2試合、南北海道の道栄高校と千葉県八千代工業高校が第2試合、第3試合には優勝候補の一角、姫路城と今大会最長のブランク佐賀の武雄学院が激突します。試合は折り返しの5回が終了、桜稜学園大差をつけています」
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「田村、6回無失点の投球内容で降板。2番手は2年生ピッチャーのひとり、島岡。スライダーとシュートを操る技巧派右腕」


「7番外城田三振ワンナウト!」
「江口の打球はピッチャーゴロ、島岡弾きましたが送球間に合いツーアウト」
「バッターはピッチャーの流川、ショートフライに仕留めスリーアウト三者凡退」




「8回無死一塁、打順は島岡というところで桜稜学園は代打に1年生桂を送りますこの夏初めてのバッターボックス」


「三振してもゲッツーにしてもどうせ誰も責めない、だから好きなようにやってこい」 
「…はい!」

(せっかく来たチャンスなんだし、ホームランとか狙ってみたいなあ…高校初安打がホームラン、断然アリじゃないか!)


「マジかよ」
「…これが桜稜野球ってやつか?」
「知らんね」


「どよめきで揺れる甲子園!1年生の打球がスタンドに届きました!桜稜学園さらに2点追加!」



「代打の桂が一塁、西園寺はそのままセンターに入り4番に投手として宇野がマウンドを任されました。左の速球自慢な2年生」


「1番の司門には安打、2番常永に死球とピンチを招いて3番セカンドの羽立」

(二塁の司門も代走の種子島も俊足、0封を逃すわけにはいかないしなあ)

「決め球スラーブ極った!空振り三振!」
「渾身の直球見逃し三振!3番4番と連続三振!」  


「よしよし、流石…俺」
「5番 ファースト 加積くん」

「羽立と子吉の仇は討つ!」
「討つんならここまでの23アウト全部にしたらどうですか!?」 


「橋本よく捕った!きょう2度目のファインプレー!二塁へ転送しスリーアウト」



「西園寺の2打席目はライトフライでスリーアウト、桜稜学園結局スコアボードに0は刻まれませんでした」  


「桜稜学園4番手をマウンドに向かわせます2年生アンダースローの若宮が登板します」


「ここのマウンドも3回目か…慣れないなあ」
「落ち着いてるようで助かる。さあ、終わらせよう」

「…はい」

「善通寺国際の打順は6番の千平から」

「…やりますか」


「江口打った!しかし財前阻む!」
「よし!」

「気迫を見せましたが届かずスリーアウト!桜稜学園が初戦圧勝で2回戦進出!」  
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