桜稜学園野球部記

神崎洸一

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黒木。
一条からしてみれば「なんか自滅した人」という印象だけだったが最後の夏を前に復活しなにやら囃し立てられていたらしい。知ったこっちゃないが叩き潰してやるかと決意したのだ。
ベスト8に駒を進めるのは我ら桜稜学園だ。

「あっ」
第1打席の初球を振りに行った一条はもれなく呆気ない言葉が自然に出てきた。
打球は見事に黒木の右肩を直撃し大きく跳ね上がる。内野安打は美味しい。
黒木は肩を押さえたまま立ち上がらずにそのまま背番号15に肩を貸されどこかへ消えて行った。
15番は覚えている。前の試合1番打者で全部三振した垂田とか言うやつだ。温情で起用されるといいね、知らんけど。

その後の面倒事の一切を押し付けられたのが徳山である。どれだけ完膚なきまでに打たれようとも他の投手たちが肩を作るまでの時間稼ぎはしなくてはならず、地獄そのものなマウンドになった。


徳山は2回11失点で出番を終える。
そして野手陣は尚更壊滅的であり、特に新しく1桁を任された宮下大工備前は全部三振である。

例え投手が変わろうともものともしないのが桜稜学園打線であり、かつて21点をマークした横浜造船からは3番手東出の2イニングでも10得点し、5回には3得点で24点差で迎えた5回はウラ。打順は今日2回目のバッターボックス、4番レフト鬼屋敷から。


またもや参考記録であるとはいえど完全試合ペースである。もっとも、南は気にしてはいないのだが。

球場のざわめきを全て自身への歓声と捉えるようなキテレツ人間なのが南と北と中之島、それから一条である。
非難の声であっても、誰かの涙が籠った必死の声援であっても。

鬼屋敷の打球はセンター方向。初めて外野に届くか、それとも落ちるか…という非常に興味深い打球だったのだが、背番号4が背中を見せながら切り込む。そしてそのまま落下地点に飛び込みを見せ、悲喜こもごもの球場にアウトのコールが響き渡る。

代打十条、3年生。
取り敢えずミートとかできるやつでも出すのだろうか、というところであったが初球から見事にタイミング合わずといったところで見事にカーブに惑わされ三振。

そして6番ピンチヒッター韮沢。
また高校球児の夏が終わる。
その瞬間を棒立ちで見守る一条、そして中之島といったところであり、吉田も高校で初めてのスタメンを経験した一試合であった。

各個人でどう捉えるのかが異なる不思議なサイレンが鳴り、さらに半分の高校球児の夏が幕を閉じた。
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