桜稜学園野球部記

神崎洸一

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春のセンバツ甲子園は春連覇のかかる白馬中央、夏に続いて優勝旗を持ち帰るか仙台育強、西のプロ注目右腕である成本擁する神宮大会制覇の大阪桐陽、史上最速での出場になる桜稜学園、21世紀枠とはいえ甲子園の土を踏む初めての連合チームと様々な高校が登場する波乱が予想される春の甲子園、開幕となる。

「初手…優勝候補か…」
「本来なら東の御船と西の成本、右の成本に左の御船と並んで賞されるくらいには好投手だな」
「褒めてんのか貶してんのか」
「無理に勝てとは言わんが…負けたとしても得るものは多いはずだ。全力で取り組むぞ」
「了解」
「三塁側、大阪桐陽高校。一塁側、桜稜学園高校。この一戦が始まります」
ラジオからそんなアナウンサーの声が漏れ、サイレンが鳴り響く。そう、ここが甲子園。

「1番 センター 和田くん」

「さあ、かかって来い」
「…」
「初球打ってきた!打球はセカンドが捕ってまずワンナウト」

「2番 セカンド 掃部くん」

(初球打ちでしかも凡退とかふざけてるんだろあいつ)
(…ここだ!)
「あっと打ち上げた、打球は財前の守備範囲」

「3番 ライト 桟原くん」

「初球見送りましたワンストライク」
(うーむ、流石はここまで来た投手だな)
「2球目カーブでしたが手が出ません」
(あーあ、やっちまったかこりゃ)
「三球三振!手も足も出ません!」

トップバッターの長宗我部。
フォークボールをなんとか打つかたちで打ち上げる。 
キャッチャー原口が掴んでアウト。
成本はそのまま一条、北と退けて三者凡退。

大阪桐陽は2回、4番の洗井に大きな当たりが出るもこれはセンターフライ。5番大松と6番観音寺と連続三振に切ってとる。

成本は南との力勝負に勝利すると中之島には7球を投じたものの詰まらせ、橋本は二塁前方のフライに倒れる。

7番佐々木にファーストフライを打たれた南はその後ろの原口、そして成本を三振させる。

自分自身が三振した悔しさからかそれとも単に桜稜学園下位打線の打力不足なのか3回裏は成本の独壇場と化した。三者三振。



さて、こういうことをされると俄然乗り気になるのが南である。
勢い任せで4回と5回もピシャリと3人で抑える。

相対する成本もその2イニングの間は北と中之島にそれぞれフォアボールを与えたのみであり、そのランナーを活かせなかったのが桜稜学園であった。

さて、試合が動いたのはこの6回。
二死走者なしで打者は成本。その3球目。
「あっと成本捉えた!打球は伸びる!まだ伸びる!長宗我部届かない!入った!ホームラン!」
この投手戦の最中の1点。
「一条のファインプレーでセカンドライナー、アウトです」

6回ウラ、江島から神崎、長宗我部の打順は三者凡退に終わる。

試合は終盤に入り7回。
先頭の掃部に安打を許すも桟原、洗井、大松のクリーンナップは抑える南。

一条の性格の悪さが滲み出る。
一条のバントは見事にマウンドの横をすり抜け三遊間へ。ノーヒットノーラン妨害成功。
内野安打、バントヒットで先頭が塁に出たものの
北はショート後方へのフライを打ち上げた。
観音寺が捕って返球をする、その時であった。
成本はそれを受け取りそのまま真っ直ぐにバッターボックスを向く。
南が最初に二塁を指差しニヤニヤしており、その直後に原口と掃部が何やら言っているので二人に従い振り向く。なるほど納得。その先には普通居るはずのない人物が居た。そのまま二塁へ投げる。間に合わないことは、わかっていた。
そして完全試合をオシャカにされた南がレフトへ安打を放つも一塁三塁からランナーは変わらずに中之島と橋本を打ち取る。
この試合、最後に二塁及び三塁を踏んだのがこの一条という男になることは誰にも知る由はなかった。

8回表、一死から佐々木が出塁も併殺。 
8回裏、三者凡退。
9回表、三者連続三球三振。
9回裏、北が二死から出塁も南がピッチャーライナー。試合終了。

この春の甲子園を制するのは大阪桐陽になるのだが、秋の一連の大会と春の甲子園の全ての試合を無敗で勝ち進んだ彼らが僅かに3安打1得点14三振に抑えられたのはワーストの記録であり、大阪桐陽の選手の殆どが印象に残ったチームであると評し、多くの高校野球ファンがこの甲子園における最高の試合にピックアップする程の激戦であった。
夏の甲子園で、彼らの再戦を望む声は多く上がっていた━━━
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