傘に魔法が宿ったら

ゆず太郎

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第1章

第15話 関係。

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第15幕
長い1日から一夜明けても、疲労は抜けずむしろ溜まる一方だった。
ピーンポーン
そんな事を考えている時に限ってその疲労を与えている張本人がくる。
それはこの世の中の定理のようなものなのだろうか? これは僕が一生のうちに解決しておきたい疑問No.1である。
そんなくだらない茶番は置いといて。
「歩夢くんいます?」
母親と会話(といっても質問しているだけだが)している霞がソワソワ(きっと学校に早く行きたいのだろう。)し始めたので、玄関へ向かう。
「おはよう。霞。」
「おはよう。疲れてそうだけど大丈夫?」
心の中では “お前のせいだよ” と叫んでるのだが、流石に言えるわけがないので。
「ちょっとね。」
と定型文を返す。
「ならいいんだけど。それじゃあ行こ♪」
今朝の霞はすごくご機嫌なようで、いつもよりも軽快な足取りで登校している。そんな日に決まって訪れるのは…


背後からピーポーピーポーとサイレンを鳴らし隊列を組んパトカー、ならびに救急車と消防車が近づいてくる。そして400mくらい先で止まった。
薄っすらと煙が立ち上っているのがわかるが微かに見えるくらいだ。
「おいおい。マジかよ。」
動揺を隠しきれず、独り言が溢れる。
それは霞も同じらしく、口を両手で抑えてしゃがみこんでいた。
「か、霞?」
流石にオーバーリアクションだと思ったので、霞の元に駆け寄り霞の目線の先を見る…
その火災現場は霞の祖父の家だった。
そこそこ距離があるので確信ではないが、見覚えのある場所と建物だった。…そういえばこの辺は子供の頃よく遊びに行ったところだ。などと考えていると、霞が走り出していた。
「⁉︎ 霞‼︎ 霞待って!」
霞は黙って全力速力で走っている。
300m近く走ってからようやく止まった。
「お、おじいちゃん…」
霞は泣きながらショックで肩を落としていた。それを慰めるように寄り添う。無意識にやってしまった以上引っ込みがつかず、公衆の面前で霞に後ろから抱きついてしまっている。
それもそれでどうかと思ったので手を離そうとすると。
「もうちょっとだけお願い。」
弱々しくもはっきりとした口調で…
こんなお願い断るとバチが当たりそうなので、少し…いやかなり恥ずかしいがもう一度手を伸ばし、霞に寄り添う。登校時間まであと2分程度しかなかったので一応学校に遅れる。と親に連絡しておいた。俺がL◯NEから『学校に遅れる。』連絡したのは初めてだったので親も慌てたのか、すぐに学校に電話をしてくれた。
事情を言い忘れていたが、余程のことだったと思ったらしく即座に学校に連絡を入れてくれたみたいでこちらとしても少し安心した。
「霞? どうする? 学校。」
「…今日は行きたくない…」
「でも家に誰もいなかったよね?」
「なら歩夢の家は?」
「…まぁいいけど…」
そう言いながら、僕たちは来た道を戻った。


「ただいま~」
共働きなので当然だれかいるわけもなく、家の中はシーンと静まり返り少し寂しい雰囲気を漂わせている。
「お、お邪魔します。」
さっきに比べたらだいぶん落ち着いたんだろうが、まだ声色は暗い。
「とりあえずそこ座って。」
「う、うん。」
そう指示すると霞は大人しくソファの上に座った。その間に紅茶を淹れるため電気ケトルをつける。そしてティーセットを取り出た。リビングに戻ると霞の横に座り、慰めるために再度寄り添う(今は抱き寄せるの方が近しい。)。すると霞は観念したように泣き出した。子供のように、赤子のように。
1時間ほど泣くと流石に落ち着いたようで、(暗い表情は変わらないが)
「付き合ってくれて、ありがとう。なんかごめんね。」
「いや、いいよ。おじいちゃんにはお世話になってたし、親戚なんだから。」
「そう言ってくれると助かる。」
そしてしばらく、10秒ほどだっただろうか。不思議な間が空いて霞が呟いた。決心したように。


「私と…付き合って…くれませんか?」


唐突にすぎる発言に少し驚いてたが、恩人にそんな事を言われたら、というか断る理由もないので。
「う、うん。こちらこそ。」
と定型文だがはっきりとした口調で返した。
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