上 下
62 / 63

実行3

しおりを挟む
「そろそろか」

 時計を見て時間を確認した宗吾が呟く。
 時刻は八時四十分。どこのクラスも朝のSTを始めようとしてる時間帯だ。

 今俺たちがいる場所はいつもの教室。

 宗吾の声を聞いてか、大毅はガタリと座っていた机から立ち上がった。椅子があるのに何故机に座るのか、意味は不明だが。

 その時、ザザザと機械音が教室に鳴り響いた。いや、違う学園中にだ。だって、この機械音は……。

 宗吾を見ると、ニッとして笑いかけてきた。ホッと安堵する。よかった、血走ったとかそういう理由じゃなく、これも作戦に組み込まれていたことらしい。―――ホントにいいのか!?

 自問自答してるうちに、放送が始まった。

『あー、マイクテストマイクテスト』

 やっぱり。
 聞いたことある声。圭子の声に、アイツこの前問題になったばかりじゃなかったっけ。何やってるんだ。そんな感情を抱くが、それに気づくわけがなく、圭子の放送は続いていく。

『えー皆の衆。私は彗星圭―――』
『ストップ!名出しはダメですよ姉御!!』
『あー、そうだったな。すまない菫』
『思い出してくれればオーケー……って何サラッと人の名前をバラしてくれてんですか!?あー、えーと皆さん!私は菫じゃないですよ!?えーと、ミス、ヴァイオレッドです!!』
『はっはっは。それ結局英語にしただけでスミレじゃないか』
『えぇ!?圭子の姉御!?ヴァイオレッドってスミレっていう意味があったんですか!?私てっきり紫とかそんな意味かと』
『スミレの色を思い浮かべろ』
『え、ピンクかな』
『それは菫の頭の中の色だろう?』
『ひどっ!?姉御ひどっ!?』
『ごらぁぁぁぁあ!!!彗星!!樹林!!大人しく投降して出てこい!!!』
『えぇっ!?何かバレてるっすよ姉御!?』
『ふむ。向こうは相当な腕前の諜報機関を所有していたようだな。くっ、』 

「いや諜報機関なんていねーから。自分達で暴露してただけだからな……」

 放送器具から流れる放送に、俺はジトッとした目線を向ける。どうやら考えてることは同じみたいで、宗吾も大毅も同じような目をしていた。

「……ねぇ、宗吾。言っちゃ悪いんだけど俺作戦成功する気がしないんだけど」
「なっ!?」
「悪いがオレもだ」

 圭子と菫のポンコツっぶりを体感して、誰が成功すると思えようか。どれだけ優れた作戦でも実行者が無能なら無能な作戦になるのだ。

 俺と大毅、二人の視線に宗吾はやけに堂々とした佇まいで答える。

「別にアイツらはあれでいいんだよ」
「でも、宗吾。お前さっき一番重要な任務だから何とかって菫にメール送ってなかったか」
「大毅……人のメールを横から覗くなよ。確かに送ったぞ。まぁ、嘘だけど」
「嘘?」
「あぁ楽斗。考えてみろ。圭子はともかく誰が菫に重要な任務を与えると思ってんだ。絶対失敗するだろアイツ」

 辛辣な評価、でも納得せざるを得ない正論だ。

「正直本当の目的はアイツらが馬鹿やることでそれを止めにと教員達を移動させることだ。交渉してる間に横やりが入ったりしたらめんどくさいからな」
「注目、か。ならオレも何かやらかしたほうが良いか?校舎破壊するとか」
「おまえ、それは停学じゃすまないだろ。下手したら退学だ」
「バレなきゃ良いんだろ?」
「はぁ……ったくホントにお前たちは考え方が物騒だな」

 ……勝手に花火打ち上げたり、鍵クスねたりする奴に言われたくない。

「で、どうするんだ?オレが行くか?」
「いやいい。大毅を動かさない理由は他にあるからな」
「何だそれ?」
「プランA、B、Cを使っても教員を散らせなかった時に殴り込みしてもらう」
「おいおい、それこそ退学ものだぞ?」
「バレなきゃ良いんだろ?」

 三人はクックッと笑う。
 そんな怪しげな集団の中、一人時計から一切目を反らさなかった宗吾が小声で言った。

「始まるぞ。プランBだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

坊主の決意:ちひろの変身物語

S.H.L
青春
### 坊主のちひろと仲間たち:変化と絆の物語 ちひろは高校時代、友達も少なく、スポーツにも無縁な日々を過ごしていた。しかし、担任の佐藤先生の勧めでソフトボール部に入部し、新しい仲間たちと共に高校生活を楽しむことができた。高校卒業後、柔道整復師を目指して専門学校に進学し、厳しい勉強に励む一方で、成人式に向けて髪を伸ばし始める。 専門学校卒業後、大手の整骨院に就職したちひろは、忙しい日々を送る中で、高校時代の恩師、佐藤先生から再び連絡を受ける。佐藤先生の奥さんが美容院でカットモデルを募集しており、ちひろに依頼が来る。高額な謝礼金に心を動かされ、ちひろはカットモデルを引き受けることに。 美容院での撮影中、ちひろは長い髪をセミロング、ボブ、ツーブロック、そして最終的にスキンヘッドにカットされる。新しい自分と向き合いながら、ちひろは自分の内面の強さと柔軟性を再発見する。仕事や日常生活でも、スキンヘッドのちひろは周囲に驚きと感動を与え、友人たちや同僚からも応援を受ける。 さらに、ちひろは同級生たちにもカットモデルを提案し、多くの仲間が参加することで、新たな絆が生まれる。成人式では、ロングヘアの同級生たちとスキンヘッドの仲間たちで特別な集合写真を撮影し、その絆を再確認する。 カットモデルの経験を通じて得た収益を元に、ちひろは自分の治療院を開くことを決意。結婚式では、再び髪をカットするサプライズ演出で会場を盛り上げ、夫となった拓也と共に新しい未来を誓う。 ちひろの物語は、外見の変化を通じて内面の成長を描き、友情と挑戦を通じて新たな自分を見つける旅路である。彼女の強さと勇気は、周囲の人々にも影響を与え、未来へと続く新しい一歩を踏み出す力となる。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

おもらしの想い出

吉野のりこ
大衆娯楽
高校生にもなって、おもらし、そんな想い出の連続です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...