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作戦名は make a break ! 4

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「―――なんてことがあったんですよ!」
「……で結局どっちが勝ったんだ?」

 夕方。何故か当たり前のように流音と共に帰って来た菫の話を聞いていた楽斗は結果を予想しながら、確認のため問いかけた。

 いや、まぁ結果は明らかなんだけどな。横で姉さんが顔真っ赤にして手で覆い隠してる時点で丸分かりって言うか……。

「ふっふっふ、結果を知りたいですか?」
「早く言え!」

 焦らしてくる菫にムカつきつつ、催促すると菫はクルリとその場で回って自分を指差して宣った。

「接戦の上……いや私の圧勝でした!」

 ですよねー。言っちゃ悪いけど姉さんのセンスは独創的っていうか個性的っていうか……はっきり言って壊滅的だからね。
 ファッションビッチの菫に勝てるはずがないよねー。

「おや?あんまり驚かないようですが……まさか私が勝つと信じてくれてました?」
「いや違うな」
「違うと言いますと?」
「逆に姉さんが勝つ姿が思い浮かばなかっただけだ。姉さんファッションセンスないもんな―――ふぎゃ!?」

 回し蹴りを横腹に食らってしまった俺は潰れた蛙のような奇声をあげる。

「ふぁ、ファッションセンスがないってどういうことよ!」
「い……いや…………もう認めろよ」

 例え相手がファッションビッチ(笑)だとしても、ファッションバトルに圧敗だったことには代わりはない。
 そういう含みを持って痛む腹を押さえながら言うと、

「ち、違うわよ!審査する人の目がおかしかっただけよ!」

 おっと、そう来ましたか。あくまでも自分は悪くないって言う完全なる責任転嫁。

「……でも、るーねぇ。審査してくれた人、百人くらいいたけど、るーねぇの票ゼロ票だったじゃん」

 す、すげえ。確かに圧敗とは聞いていたがまさかの100対0だったとは。どんだけ壊滅的……ゴホンゴホンッ。独創的なセンスしてるんだよ!

「ひゃ、百人全員が目に病を抱えていたのよ!」

 たまたまショッピングモールに行きたまたま審査員を務めてくれた人が全て目に病を抱えていた!?どんなドキュメンタリーだよ。もう一周回って奇跡のレベルだろうが!

 あまりの言いぐさに吹き出しそうになったが、ギリギリ耐える。……そろそろ腹筋が崩壊しそうだ。話を変えよう。

「……そういえば俺も今日大毅に誘われてカラオケ行ったんだけどさ―――」

「えっ?カラオケ!?」
「なになに詳しく聞かせて!kwsk!」

 案の定かかってきてくれた二人に今日の詳細を話した。




「―――で女子が全員帰っちゃって何故か俺達がクソオ……同級生男子に怒られたってわけよ。解せないだろ?」

 全て話終えた俺はすかさず同調を求める。

「……そうね、クズね」
「極めてクズですね」

 ホッ、どうやら二人ともクソオがクズだって分かってくれたようだ。
 と思ったら二人して俺を指差して言った。

「「このクズ!」」
「はぁ!?」

 な、何で俺が!?

「ま、まさかがっくんがここまでクズになってるなんて……明らかに大毅の仕業ですね。よし決めました今日から大毅は敵《ヴィラン》です。正義の名に懸けて必ず潰します」

 ……あっ、ごめん大毅。変なのに火を着けちゃったようだわ。
 心の底から悪友に謝罪する。

「全校生徒の前で性別詐称、同級生の家をメイド服周りに加えてカラオケで合コン潰しなんて……楽斗、貴方はどこまで落ちれば気が済むのかしら。恐ろしい子っ!」
「おいちょっとまて、全校生徒の前で性別詐称は姉さんの所為だろうが!それにメイド服周りは宗吾の所為だし……まるで俺が変態みたいに言うんじゃねぇよ!」

「「え?」」

「「え?」じゃねぇよ!」

 なんだその反応は……俺は変態じゃないって言うのに、こんなにピュアだと言うのに失礼な。

 ……本当にピュアな人は自分のことをピュアと言わないなんてことに気づかない楽斗は心の中でそう愚痴る。

「……ていうか、菫、そろそろ帰れよ!」
「えー泊まってく」
「昨日は土曜だったから許したが今日は日曜!明日学校だろうが!泊まらせねぇよ!」
「そうね、楽斗の言うとおりよ!帰りなさい」
「ちぇー。わかったよ帰る!じゃっ、まったねぇえ!!!」

 そう言い残すと、菫は帰っていった。
 静けさが空間を支配する。

((菫がいないだけでこんなに静かなんだな))

 そんな中、二人は感動を覚えていた。


 やがて、気を取り直した流音が一言。

「……楽斗、課題やった?」
「あっ!」
「……仕方ないわね。今日の当番あなただけど、私がご飯作っといてあげるわ」
「え……何でそんなに優しいの?」

 いつもなら強引にでも作らせようとする筈なのに。そう思い驚愕を露にすると、流音は照れ臭そうに……

「そ、その代わり私がファッションバトルに負けたって話は門外無用にしてよね!」
「……おっけ!」

 菫に口止めしてない時点で手遅れ感が半端ないが、俺は二つ返事で頷いた。
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