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Ⅲ ヒロインの宿命?
33. 私の騎士?
しおりを挟む伯爵令嬢メリッサさんのおかげで、レイラ様から解放された私は、ふっと近寄ってくる気配を感じてそちらに目を向ける。
「無事着いたか」
「あ……ベイル様!」
やってきたのはベイル様。どうやら登校初日ということで、心配して見に来てくれたようだ。私はようやく知った顔を目にして、ほっとする。
どうやら自分で思っていた以上に緊張していたらしい。緊張していたことにも私は気づけていなかった。
「お気遣いありがとうございます。どうぞ本日からよろしくお願いいたします」
「あぁ、構わない。困ったことがあったら何でも言ってくれ」
「ありがとうございます」
思わずふふふっと笑いがこぼれる。
やっぱりベイル様はやさしいな。いち早く私の事情を知ったからっていうのもあると思うけれど、きっとそうじゃなくても助けてくれただろうって信じられる。
そんな笑みとは言えないまでも柔らかな表情をしているベイル様を見ていると、ベイル様ふっと視線を外した。その顔に次第に赤みが差していく。
あ…れ……?
つられてなんとなく気恥ずかしさを感じ始めた時、後ろから延びてきた手で私はまたしても抱きしめられた。
「わっ」
「あら、エイドリアン伯爵。ミュリエルを助けるのは私の役目ですわ。私のお仕事を奪わないでくださる?」
その主はもちろんレイラ様。ベイル様に見せつけるようにぎゅうぎゅうすりすりしてくる。
っと、ちょ、髪が! レイラ様、髪の毛くすぐったいです!
「……そうだったな。では、頼む」
ベイル様が羨ましそうに目を細め、静かに頷いた。
え、そ、そういう反応!? いや、うん、ええと、もう、どこを突っ込めばいいかわかんない。
けど、これが日常だったんだろうなって思う。見てるメリッサさんも何も言わないしね。
なんて考えていると、ふと、ベイル様の目が、私の左腕に留まった。
「それ、は……?」
「あ……」
視線の先にあるのはセーファス様からいただいたメイズヤーン。私はつい反射的に右手でそれを隠した。
「そうか」
視線を伏せるベイル様。その悲しげな様子を見て、胸にずきんと痛みが奔る。
「あ、ちが、その……」
誤解です! そう言おうとしてはたとする。誤解、なのだろうか。
わからない。頭の中が混乱する。自分が何を言おうとしているのか、何を言いたいのか訳がわからなくなった。
その、何だというのだろう。特に深い意味はないといったところで、セーファス様が私に好意を向けてくださっているのは事実だ。このメイズヤーンがその好意の表れであることも。
だからといって、それを受け入れたわけではないと口にするなら、どいうつもりだということになる。そうなれば人の好意を弄ぶ悪女といわれても仕方なかった。
「その、これは……」
「すまない、答えなくていい。ただ……代わりに、次の休みの日を一日、私にくれないか? 頼む」
「……はい」
そう答えるのがやっとだった。
ベイル様は固い表情の教室から出ていく。私は胸を押さえながら、その後ろ姿を見えなくなるまで追っていた。
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